今までにない下落幅
「最も単純な要因は、ドル高が急速に進んだことだ。米ドルは金融引き締めの影響で、半年間で189ベーシスポイントも上がった。これは極めて高い。コロナウイルスのパンデミック時に、自国通貨を大量に投入したために始まったインフレと戦おうとしているからだ。米国人は今、インフレを国の最重要課題に数えている。一方で日本ではコロナのパンデミック時にはほぼインフレの状態ではなく、当時も非常に緩やかな金融政策を行っていた。今、日本が彼らが勝ちえたのはせいぜい2%の成長であり、これは現在のインフレ率である。長い間、インフレ率はほぼゼロで、時にはそれ以下だった」
競争の時代に突入
「日本はGDPの約260%という高い国家債務を抱えている。他の先進国ではこの値はその半分だ。低金利、円安は1950年代半ばから1980年代半ばの古き良き時代では日本経済の競争力を維持するためには良かった。日本はそれを狙ったわけではない。それでも金利は半年で8ベーシスポイントも下がった。日本の輸出は活性化するのだから、これも良いと言えるのかもしれない。問題は香港、シンガポールに続いて、購買力平価で日本を抜いた中国、韓国、台湾が機能していることである。日本は競争力を失いつつある」
円は強くなるか?
「株式市場を見ると、日経平均が3.4%マイナスだが、先進国の平均指数が0.5%というのはまずい。もちろん、通貨が下落した後に跳ね返りが来る可能性もある。だが、世界には地政学的な要因も少なくなく、これは独自の影響を与える。日本の社会にあいている膨大な数の穴。これは塞がなければならない。ところが日本の若い男女にはまだその覚悟がない。こうした甘やかしの傾向は世界中に見られるものではあるが、日本は先進国の中では最も高齢化が進んでいる。人口と労働力の減少は長年にわたって続いている。これは経済学では人口ボーナスの損失と呼ばれている。とはいえ、ライバルの韓国や中国も高齢化問題を抱えているのは事実だが」
物価高とインフレ
「2%というのはとんでもない物価高とはいえない。米国ではこれはいたって普通のインフレ率だ。これは多少なりともインフレの状態にして、国民が資金を貯蓄にではなく、少しでも購買に回すよう仕向けるために日銀がとった策だった。日本経済をだめにしているのはインフレではなく、低い経済成長であり、インフレで引き起こされるのはむしろ所得格差だろう。社会層のどこに位置するかによってインフレの影響をどう感じるかは変わってくる。社会的には平均2%、人口の上位10分の1から5分の1の擬似エリートにとっては、インフレは一般より低く感じられる。ところがそれ以外の人々にとっては、もっと高いインフレ率として感じられる。グローバルなプロセスによる輸入エネルギーの値上がりは彼らには痛手となる。インフレの目的は日本の経済成長を確保することだが、現在の政策を続けたところで、良好な経済成長を望むのはおそらく無理だ。日本は、日本のモデルを真似た多くの国に周りを取り囲まれている。主要な競争相手はすでに多くを勝ち取り、日本を追い越しつつある。中国はすでにミドルテクノロジーからハイテクへと移行している。日本が中国との競争に耐えられる確率は10分の1だ。韓国と台湾は中国と日本の中間で、これらの国とも日本は競争しなければならなくなるが、韓国も台湾も競争には鋭敏だが、日本人は気を抜いてしまっている。グローバルチェーンの底辺を支えているのは、日本や韓国よりはるかにレートが安いベトナム、タイ、インドネシアだ。為替レートが低くても、出生率が上がらない限り、日本が飛躍的な成長を遂げるとは信じられない。高齢化社会で急速な経済成長を遂げている例はほぼみられない。つまりそうした例はどこに国にもないということだ」