無人機と化学兵器
化学兵器の組織的な使用を示す証拠映像が現れ出したのは2023年1月。準軍事組織「ワグネル・グループ」の指揮官の報告では、ウクライナ軍は1月7日、「バフムート(ドネツク州)の戦い」で不特定の化学兵器を使用している。これを吸い込んだロシア人戦闘員らは気道と粘膜に火傷を負い、重体で病院に搬送された。
後日、ウクライナ側は禁止薬物を使用した事実を実際上自ら認めた。ウクライナ軍のある司令官がFPVドローンに数十個の化学弾薬を搭載する実演動画をSNS上で公開したからだ。映像では、有毒物質を充填した他のコンテナーがすでに冷蔵に控えている様子も映し出されている。ウクライナ軍の同様のドローンは2月5日、ノヴォバフムートフカにあるロシア軍陣地に不審な化学兵器を投下した。
化学兵器の使用の事実についてはドネツク人民共和国のヤン・ガギン首長顧問も次の声明を表した。
「戦線の様々な場所、主にソレダルとアルチョーモフスク地区でウクライナ側が化学兵器を使用したとの報告が指揮官から入っている。戦闘員らには吐き気、嘔吐、激しいめまいの症状が出ている」
後日、この情報をドネツク人民共和国のプシーリン首長自身も確認し、「化学兵器による中毒症状を訴える戦闘員や指揮官からの報告はすでに3週間も続いている」と声明を表した。こうした公式的な確認を受け、ロシア捜査委員会は化学兵器の使用状況について調査を開始。事実が確定すれば、ロシアはこの前例を戦争犯罪として扱える。
有毒物質の正体は
ロシア軍事科学アカデミーのウラジミール・コージン通信員はスプートニクからの取材に対し、ウクライナ軍が何の有毒物質を使用しているのかは、現段階では特定されていないと語っている。
「ウクライナ軍は1月から2月にかけてクアッドコプターを使い、化学兵器弾薬の投下を開始した。わかっていないのは投下されている物質の正体だけで、その症状は気道や粘膜を損なうことがわかっている」
スプートニクの従軍記者で特殊軍事作戦を随伴するセルゲイ・シーロフ氏は、この弾薬には青酸ガスが含まれていた可能性が高いと指摘している。
化学兵器がなぜドローンを使ってばら撒かれたのかについて、シーロフ記者は次のように補足している。
「神風ドローンは主に屋内にいる敵の攻撃用に設計されているはずだ。ところがソレダルでは市街地の戦闘で用いられた。つまり空気中の致死性毒物の濃度が上昇したことになる。揮発した毒の濃度が0.4 mg/lを超えると吸入で中毒を起こし、死に至る。空気中の濃度が11mg/lを超えた場合は皮膚呼吸だけで中毒を起こす恐れがある。
弾薬に有毒物質が含有されていたことを間接的に示す証拠は他にもある。それは神風ドローンが通常のMavic型ではなく、FPVだったことだ。このFPVドローンは極めてマヌーバ性が高く、木の枝の間を抜けていくことができる」
弾薬に有毒物質が含有されていたことを間接的に示す証拠は他にもある。それは神風ドローンが通常のMavic型ではなく、FPVだったことだ。このFPVドローンは極めてマヌーバ性が高く、木の枝の間を抜けていくことができる」
化学兵器の防御手段
こうした一方でシーロフ記者は、ガスから身を守る最たる方法はガスマスクだと語る。
「青酸 から身を守る一番いい方法はガスマスクの着用だ。戦闘員はリュックに必ず入れておくようにと言いたい。すでに装備されているとは思うが。ただし、先に述べたように揮発した有毒物質の濃度が高い場合は皮膚呼吸による中毒もあり得る」
ドネツク人民共和国のデニス・プシーリン首長も、化学兵器からロシア軍を防御する方法を模索中だと断言した。
「必要な化学防護を部隊に装備しようとしている。必要な装備はあるにはあるが、陣地で常に化学防護手段を装着した状態でいるのは不便であり、部隊のこなすべき課題を遂行しにくい。そのため、今、部隊を防護する別の方法が模索中だ」
西側は知らぬふり
だが、ウクライナ軍の化学兵器の使用はこれが初めてではない。ロシア国防省は2022年7月31日の時点ですでに、ロシア軍に対して化学兵器が使用された事実を公言していた。にもかかわらず、化学兵器禁止機関や国連は未だに一切反応を示していない。
どうして反応しないのか、という疑問が当然ながら湧く。それはもし、ウクライナが禁止薬物を使用した事実をたった1つの国際機関ないしは西側の国家が認めれば、ウクライナ側への軍事支援を正当化できなくなるからだ。そうなればウクライナは戦犯となり、それを幇助するすべての国も戦犯と同列に並ぶ。