【視点】岸田首相のウクライナ訪問 欧米に良い顔を見せつつダメージを回避したい?

モスクワ国際関係大学外交学部の教授で、ロシア科学アカデミー米国・カナダ研究所主任研究員、特命全権大使(元駐日ロシア大使)のアレクサンドル・パノフ氏が、日本の岸田文雄首相のウクライナ訪問についてスプートニクに語っている。
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G7「議長国」としての役割が義務に

岸田首相がウクライナを訪問した主な理由は、日本が2023年における主要7カ国首脳会議(G7)の議長国であるためだとパノフ氏はみている。

「したがって、岸田首相は現在、広島サミットの準備を非常に積極的に取り組んでいます。まず、ウクライナ危機の解決に向けて、日本が欧米にとって信頼できる同盟国であることを示す必要があります。そのため、岸田氏はキエフ(キーウ)を訪問し、連帯を示すのです。しかし、最も重要なことは、G7における日本の重要な役割を示すこと、ゼレンスキー大統領をサミット出席のために広島に招くこと、あるいはサミットにビデオ形式で出席するよう呼びかけることなのです」

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連帯、だけど「口先」ばかり

一方、日本政府はウクライナ紛争において、ウクライナ政府への連帯を表明しているにもかかわらず、日本はウクライナへの経済的支援が他国より少ないと、パノフ氏は指摘している。
「経済支援という点では、日本はウクライナに15億ドル(約1980億円)拠出する予定です。しかも、直接的な援助ではなく、融資としてです。そして、欧米の拠出額と比較すると、これは大きい額では全くありません。そして、日本はウクライナからの避難民をほとんど受け入れていません(日本の受け入れ規模は1000人程度)。ウクライナへの各種援助物資の供給も似たような状況です。日本は防弾チョッキやヘルメット、そして何らかの人道的な支援にとどめています。日本では武力紛争が起きている国への武器の提供を禁止しているため、武器は供与されません」
日本がウクライナを訪問するのは、団結した西側諸国との一線から外れないようにするためだ。広島サミットでは、ウクライナの話題が主要な議題の一つになるだろうから、なおさらだ。
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中国ではなく、日本がアジアのボスとして

パノフ氏によると、日本人は今、自分たちが欧米にとっての「アジアの支柱」であることを証明するチャンスがあると感じているという。

「そして、この間、(日本は)アジア情勢の『監視役』をある程度果たしています。その際、日本政府は何よりも第一に中国について考えています。中国は日本にとって『最大の頭痛の種』です。中国が台湾を武力で占領し始めたら、日本の利益が脅かされるという議論は、アジアではかなり以前から存在するのです。なぜなら、そういう事態になれば、米国は台湾に軍事支援を行い、中国は日本の領土にある米軍基地に対して報復するでしょう。また、中国は台湾の次に尖閣に向けて南下し始め、その後沖縄にやって来るだろうと予測されています。こうした予測に基づいて、日本は今、国境となる南西諸島に守備隊を配備し、防衛態勢を整えています。最近では、沖縄の近くの石垣島に新しい駐屯地が開設され、(日本政府は)この駐屯地開設は防衛力を高めることになると表明しました」

また、日本の防衛費は北大西洋条約機構(NATO)の基準であるGDP比2%にまで引き上げられ、この防衛費増額は日本にとって脅威となりうる基地への反撃能力を生み出すことになると、パノフ氏は指摘している。
現在の日本の政治指導者によると、このような軍事化こそが、この地域の平和への道であるという。そしてこれは、国際関係においてますます積極的に自身を示すという、日本の現在の方針にも合致している。
このように、日本人は今、欧米や世界政治全般において、自国の役割を高めるチャンスを逃すまいと、非常に「あくせく動き回って」いる。これは、日本がいかに「重要なプレーヤー」であるかを国際社会に示すためだ。
その過程で日本はロシアとの関係を犠牲にすることを選んだので、欧米は日本のこのような行動を奨励している。
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取り返しのつかない損害を回避しようとする

しかし実際には、日本の経済的利益が、この政策の「儀式上の犠牲者」になってしまう可能性がある。
日本政府はこれを認識しており、ウクライナとの連帯や独自の対露制裁を実施しているにもかかわらず、「つかまって」まだ留まれる場所に居続けようとしている。
そして、これは日本の経済の中で最も脆弱な部分を表している。
パノフ氏は、「日本政府はロシア政府との関係において、厳しい制裁の道を選びました。これは、これまでの露日関係において一度も起きなかったことなのです。両国間の政治的対話は事実上停止し、日本企業はロシアから撤退しています。統計によれば、全てが撤退したわけではなく、30%が撤退したにすぎませんが。その一方で、サハリンプロジェクトや北極圏のLNG事業『アーティックLNG2』に参加するエネルギー分野の日本企業は残留しています。日本は、これらのプロジェクトに参加し続けることを選択したのです」と指摘している。
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