潜水艇の「タイタニック号」ツアーの全貌
米「オーシャンゲート・エクスペディション」社の潜水艇「タイタン」は、カナダのニューファンドランド島の南東約650キロ、大西洋の水深約3.8キロの底に沈む難破船「タイタニック」を目指して潜水していた。潜水艇には、同社の創設者ラッシュ・ストックトン氏、英国人億万長者で宇宙旅行者のハミッシュ・ハーディング氏、パキスタンの大富豪シャザダ・ダウッド氏とその19歳の息子、そしてタイタニック号の探検家の仏ポール=アンリ・ナルジョレ氏の5人が乗船している。NBCニュースによれば、ナルジョレ氏は沈没船の残骸を引き揚げた最初の人物であり、ジェームズ・キャメロン監督の伝説的な映画「タイタニック」の制作に協力した人物。
潜水艇「タイタン」
© 写真 : Social media page of OceanGate Expeditions
ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、ツーリストらを連れ、タイタニック号の沈没現場に向かった「タイタン」は環境DNAの研究のために沈没船周辺の水サンプルと海洋生物の痕跡を採取するミッションを帯びており、そのために必要な全機材を搭載していた。
ところが潜水開始から1時間半の時点で潜水艇はレーダーから姿を消し、乗客との連絡も途絶えたため、タイタン捜索のために米国とカナダの特別船が直ちにこの海域に出動した。これまでにおよそ2万平方キロメートルの水域が捜索されている。海面の捜索にはレーダーを搭載した航空機も使われ、その後、最深6キロまで潜水可能な水中ロボット「ビクター6000」を搭載した仏船が現場に到着した。だが、3日に渡る捜索も何にもならず、とうとう6月22日の昼過ぎには、潜水艇の設計者の試算では酸素残量は尽きたはずだ。
「タイタニック」3D模型
© 写真 : Social media page of Atlantic Productions
今回の悲劇は何が引き金となって起きたのだろうか?
オーシャンゲート・エクスペディションズ社の元パイロット、デビッド・ロクリッジ氏はNBCからの取材に、5年前、「タイタン」のボディに使われている炭素被覆材が水深4000メートルまでの十分な潜水安全テストに合格しなかったことから、経営陣に対して「タイタン」の運用は危険だと注意を喚起していたことを明らかにした。ロクリッジ氏は後日、解雇された。
ロシア人専門家らは、「タイタン」が乗組員が意識を失ったとしても自動的に浮上するように設計されているという事実に特に注目している。浮上したとしてもハッチは外側から14本のボルトでロックされているため、中の人間が自力で脱出することはできない。そしてなによりも「タイタン」は海面には姿を現していない。科学者のアレクサンドル・インザルツェフ氏はタイタニック号の残骸に引っかかり、動きがとれなくなった可能性を指摘している。インザルツェフ氏はもうひとつの原因として、「タイタン」が水圧に押しつぶされたという説を唱えている。これより前、船体には微細な亀裂があり、これがある一定の深度で船体の破壊につながった恐れが指摘されていた。
現場ではレスキュー隊が必死の捜索を続けている。米沿岸警備隊報道官のジョン・モーガー少将は、英国の『スカイ・ニュース』の酸素残量に関する質問に対し、「我々は今もなお、乗組員とその家族を思って、救命救助活動を続けており、奇跡に望みを託している」と語っている。