NATOの東京事務所開設を押し出したのはストルテンベルグNATO事務総長であったことはよく知られている。だが、マクロン仏大統領は4月の時点ですでに、中国からの否定的な反応を恐れ、この構想に反対していた。
政治学修士でロシア科学アカデミー、世界経済国際関係大学、欧州政治研究部、地域問題紛争セクターを率いるパーヴェル・チモフェーエフ氏は、この数カ月、マクロン大統領が立場を変えていないことは、仏当局が日本の反応よりも中国との関係をはるかに重視していることを物語っているとして、次のように語っている。
「仏は、中国が西ヨーロッパを米国のジュニアパートナーとしてしか見ていないことを重々認識しており、中国との関係を悪化させたくない。一方で仏は中国には、EUがこの地域の独立したプレーヤーであり、常に米国の政策に追従しているわけではないところを示したいと思っている。こうした一方で、仏は台湾問題や北朝鮮問題ではホワイトハウスの立場と連帯しており、中国を人権侵害では批判している。
それでも中国は経済パートナーとしてはあまりに魅力が高すぎる。そのため、仏はすでに数年前から、米国からは離れ、インド太平洋地域で積極的なアピアランスを示すことができる欧州諸国のグループを作ろうとしている。目的は『第三の道』として、またアジア太平洋地域における権力の中心として自らを提供することだが、実際は仏はこれをうまく実現できていない。とはいえ、マクロン大統領は仏がこれを望み、試みることを止めれば、中仏間に良好な対話は絶対に生まれないことを認識している。だからこそ、仏は米国とは異なり、より抑制した対中路線を維持しようとしている」
チモフェーエフ氏は、仏にとって中国は経済的に重要である以上、東京にNATO事務所を開設するために対中関係を悪化させるつもりはないと見ている。
これに先立ち、マクロン大統領は仏の実業界のリーダーらを大勢を伴って中国を訪問し、習近平国家主席と会談している。異例なほどの手厚い歓迎を受け、仏のエアバス・ヨーロッパへの大型受注など、ビジネス取引が前進した。
NATOの東京事務所開設に「ブレーキがかかった」ことへの日本の反応については、仏は政治的な問題で日本と重なる部分が多い。
ただし、チモフェーエフ氏は、仏の経済プロジェクトが今、より優先的に重視しているのは対中関係であって、日本との関係ではないとして、次のように語っている。
「米の敵対国としての中国の地位は高まっており、このことは仏中関係にとってますます重要になっている。日本との関係にはそのような要素はないため、仏は日本の反応をさほど心配していない。もちろん、日本は『気分を害』してもおかしくはないが、仏の(NATO東京事務所開設への)反対には波風を立てない可能性の方が高い。なぜなら、中国の経済のあまりに大きな重要性と、今、EUにとっては日本よりも中国の方がはるかに重要だという事実は日本人自身がよく知っているからだ」
仏大統領府に近い情報筋は、NATOにとってはインド太平洋地域に事務所を開設するのは現実的ではないため、おそらくNATO東京事務所を開設するか否かの最終決定は年内いっぱい引き延ばされると語っている。
開設の決定にはNATO理事会の全メンバーの賛同が必要だ。このため、仏は実際的にこれを阻止する可能性がある。