思わぬ伏兵
ロイター通信は、「世界のLNG市場は供給が安定しておりリラックスしているように見えたが、豪州の3つのLNGプラントでのストライキの可能性によってそれが幻想であることが分かった」と指摘している。実際にストライキは起こっていないが、そのリスクを市場が意識しただけで世界のLNG価格が急騰したというのだ。
ストライキの脅威が迫ったのは豪州最大のノース・ウェスト・シェルフLNGプラント、ウィートストーンLNGプロジェクトなど。前者は三菱商事、後者は九州電力などといった日本企業も参加するプロジェクトだ。
世界の天然ガス価格の指標となる「オランダTTF」は、ストライキが差し迫っているとの報道を受け、8月8~10日で28.3パーセント急騰した。北アジア向けのスポット価格も11日までの1週間には、前週比5.5パーセント増の11.5ドルにまで上昇している。
その後、ストライキのリスクは一旦和らいだため高騰は止まった。だが、豪州ガス生産企業の労使交渉は続いており、物別れに終われば最悪の場合、ストライキによる部分的操業停止などもあり得る。ロイター通信は、もしそうなれば豪州への依存度が高い日本と韓国の電力会社は、別の国からのスポット供給を調達する必要に迫られるため、深刻な影響が出ると指摘している。
リスク分散を目指す日本
政府が発表したエネルギー白書によると、日本のLNG輸入に占める豪州の割合は42.7パーセント(2022年)となっている。豪州にとっても日本は最大のLNG輸出先だ。今月8日には日本の大手商社の住友商事と双日が、「西豪州スカボロ・ガス田開発プロジェクト」の権益を10パーセント取得すると発表するなど、協力は深化している。だが、今回のストライキ騒動で、「絶対の安定」はどこにもないということが浮き彫りになった。
エネルギー資源が乏しい日本は、ほとんどを輸入に頼るしかないのが現状だ。そのため、中東、南アジア、ロシア、豪州など様々な地域で権益を拡大することで、地政学的リスクを分散してエネルギー安全保障の強化を目指している。
ロシアは日本のLNG供給の10パーセントを占めている。日本の一方的な対露制裁により露日関係はかつてないほどに悪化しているが、日本企業が参画するロシアのLNGプロジェクトは継続している。有名な極東の「サハリン・プロジェクト」以外にも、北極圏で準備中の「アークティックLNG2」は今秋にも稼働が開始する予定だ。本格的な生産が始まれば、年間200万トン以上の安価で安定的なLNGが日本に供給される。
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