日本産水産物の禁輸を理由に日本政府が中国をWTOに提訴する可能性はどれくらいあるのだろうか、また中国がWTOに提訴する可能性はどれくらいなのか、そして実のところ同対立の背景には何があるのだろうか。スプートニクと一緒にみてみよう。
投資会社インスタント・インベストの金融市場・マクロ経済分析担当ディレクターのアレクサンドル・ティモフェエフ氏によると、今回の対立における福島第一原発からの処理水放出は、中国にとってその手順の安全性に関する懸念というよりも、むしろ、日本産水産物に代わって中国産水産物を市場に流通させるための口実だという。
ティモフェエフ氏は、中国政府がまさに今この戦略をとった理由を説明した。
「過去半年間に中国経済では構造的な変化が起こった。それは新型コロナとその影響に対するゼロトレランス政策中に、中国が自国の経済と生産に損害を与える行動を取ったことにある。現在、中国経済は急速な成長ペースに戻りつつある。一方、パンデミック後、中国経済が成長できる分野はそれほど多くないことが明らかになった。したがって、中国経済は何によって成長できるのかという疑問が生じた。なぜなら世界市場は飽和状態であり、欧州は景気後退に陥っており、米国市場は中国にとってますます閉鎖的になっているからだ。そのため現在、中国経済が農産物や水産物を含む食料に大きな重点を置いているのはまったくもって論理的だ。また中国は、ロシアから飼料を含む大量の資源を受け取った。したがって、自国の漁業の良好な発展と南シナ海の利用の成功を背景に、中国には日本側の余計な競争相手が必要ないのだ」
ティモフェエフ氏は、現在の状況において中国政府は国益のために自国の生産者を最大限保護し、外国の生産者を同市場から追い出すだろうと考えている。また中国は、日本の処理水放出も日本が自国の利益を満たすための行動だとみなしている。
中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官は30日の記者会見で、日本による福島第一原発の処理水放出は「私利私欲に走った極めて無責任な行為だ」と述べた。
ティモフェエフ氏は、米国をはじめとした世界の主要国はすべて福島第一原発からの処理水放出によって重大な事態は何も起こらないと考えているため、今回の中国の禁輸措置をめぐり、日本にはWTOで正義を獲得するチャンスがあるとの見方を示している。
「つまり、処理水の放出をめぐって世界のメディアが騒いでいるが、実際に危険はないと考えられているということだ」
日本の松野官房長官は30日の記者会見で、中国による日本産水産物の禁輸について「WTOの枠組み等の下で必要な対応を行っていく」と述べた。
ティモフェエフ氏は次のような見解を示している。
「一方、近いうちに日本と中国がそれぞれWTOに相次いで提訴する可能性が高い。中国は、日本が中国市場を差別してあらゆることに違反していると主張するだろう。したがって、中国政府にとってこれは水資源および水産物の販売市場をめぐる日本政府との来る戦いにおける『試し撃ち』となるだろう。まずは魚と食料全般だ。一方、今のところ双方は、比喩的に言えば、力比べをしているだけだ」
またティモフェエフ氏は、そこでは日本や米国がその対戦相手に含まれる「食料安全保障」のようなゲームができるのはアジア諸国の中で中国しかいないとの考えを示し、それはその経済規模のおかげだと指摘している。同氏は続けて次のように語っている。
「中国は漁獲量だけでなく、コストが生産費の半分以上を占める生物資源の生産量も増やしている。またロシアとの協力のおかげで中国には現在、十分すぎるほどの資源がある。したがって、中国が現在、漁獲だけでなく、魚の生産にも期待しているのはまったくもって論理的だ」
そして中国は、この消費者獲得競争に勝利し、日本という競争相手を押しのけることに期待している。