原子力資料情報室(CNIC)共同代表の伴英幸氏は「今のところ、オイル問題を理由に原発再稼働の主張は見られないように思います。この点からの声がほとんどないのは、火力発電の燃料は液化天然ガス(LNG)もしくは石炭が主流で、石油依存度は低いので、それほど大きな影響を受けることはないからだと思います」と話す。
資源エネルギー庁によると、火力発電が全体の発電量に占める割合は減少傾向にあるものの、依然として全体の7割程度を占めている。その中でLNGと石炭が主力である以上、今すぐに電力不足になることはなさそうだ。
とは言え、世界情勢を受けたエネルギーの争奪戦は続いており、イスラエル・パレスチナ紛争の見通しも立たない。例えば紛争の範囲が拡大し、大産油国で中東の大国のひとつであるイランの動向によっては、日本も大きな影響を受けることになる。
「中東問題でオイルの輸入が止まったり、あるいは価格が暴騰したりすれば、石油業界が一番大きな打撃を受け、市民生活としてはガソリンの値上げが直接的な影響を、間接的にはさまざまな消費財の値上げにつながると思います。それらの打撃は、原発再稼働では解決しません」
伴氏は「むしろ原発再稼働が声高なのは、温暖化対策を口実とした論調」だと指摘する。日本政府は、パリ協定で目標として掲げた脱炭素社会を実現するため、2050年までにCO2などの温室効果ガスの排出量を「実質」ゼロにしなければならない。そこで、様々な対策を講じようとしているが、CO2を排出しない発電方法である原発の再稼働も、目標実現の前提条件として織り込まれている。
福島第1原発事故の後、関西電力は新しい規制基準のもとで原発再稼働を積極的に進めてきた。9月15日には高浜原発2号機(福井県)を再稼働しており、これで原発7基を全て再稼働させたことになる。また、LNG価格下落などの要因が重なり、30日に発表した今年度の中間決算では純利益が3710億円と、過去最高を更新したことを明らかにした。
これはもしかすると、将来の電気料金引き下げの可能性など、一部では一時的に好意的に受け止められるかもしれないが、これらは原発運転期間の延長問題や使用済み核燃料の問題を先送りした結果にすぎず、日本が目指す脱炭素社会の実現に寄与するとは言い難い。
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