【視点】「日本のトリチウム」は中国沿岸に到達するか?

福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出によって、日本の最大の貿易パートナーである中国は日本の魚介類の輸入を規制し始めた。スプートニクはロシア科学アカデミー極東支部、太平洋海洋学研究所の2人の研究者ウラジーミル・ゴリャチェフ氏、ヴャチェスラフ・ロバノフ氏に取材し、福島のトリチウムが海洋のエコシステムにどれほど危険であり、中国沿岸まで到達しうるものなのか、検証を試みた。2人の科学者はつい先日、有害物質の検出と太平洋、日本海、オホーツク海の環境への影響を調べる目的の学研調査を行っている。
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警鐘は鳴らされているか?

研究者らは次のように語っている。

「私たちの調査目的は海洋中の放射性核種とカムチャッカの問題全般の研究でした。カムチャッカでは2020年9月だったと思いますが、海洋生物の大量死が起きたからです。当時、この事故の原因を解明するために大規模な調査プログラムが組まれました。まず、なぜこれほど多くの有毒藻類が発生したのか。大量に発生した藻類は毒素を大量に放出し、これが海洋生物を大量死させるのです。特に底生生物は、魚と違って泳いで逃げるわけにはいきません」

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プローブで海水測定機器を下ろす
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海水サンプルの採取
ゴリャチェフ氏は、調査には福島原発事故後の放射線汚染のモニタリングという別の重要な課題があったと話している。

「オホーツク海、日本海、太平洋を航路として進みながら私たちは海水サンプルを採取し、トリチウム、セシウム137、134、ベリリウム7といった放射性同位元素の含有量を測定しました。

採取している時、ちょうど日本では、福島第一原発事故の原子炉の冷却水の海洋放出が始まったばかりでした。放出された水は、もちろんまだロシアの海岸には届いていませんでしたが、環境放射線調査は後日、放出水の特定に役立つでしょう。オホーツク海、日本海、カムチャッカ半島東部、クリル諸島近海で採取されたサンプルの予備的な結果では、1リットルあたりのトリチウムの含有量は0.05から0.2ベクレルでした。これは、福島第1原発事故以前の太平洋海域のトリチウム含有量に相当します。つまり、環境放射線と同じです」

トリチウムの含有分析用の海水サンプルの前処理。ロシア科学アカデミー極東支部、太平洋海洋学研究所、核海洋学実験室のゴリャチェフ副室長(左)と院生のソコロフ、カリュジヌィ両氏。

中国の恐怖感は大げさか?

ロバノフ氏は、中国の示す憂慮はどちらかというと政治的問題だと見ている。それは福島から出た水はどうやっても中国に達することはないからだ。

「そうした可能性もありますが、あるとしても非常に稀なことです。何年もかかるでしょうし、その頃は『福島の水 』も有害物質から完全に希釈されているはずです」

ゴリャチョフ氏も、最も危険なのは放出されている場所であり、その面積は非常に限定されてはいるものの、海産物を養殖には適さないと考えている。

「海洋生物には確かに有害物質を蓄積する能力があります。トリチウムの浸透活性はかなり低いのですが、一方でトリチウムの害が生じるのは直接体内に入った場合だけではありません」

調査に参加した研究者ら

状況は制御済 でも万人にとってではない?

一方、国際原子力機関(IAEA)は、放出された場所から数キロ離れた地点でも基準値は超えていないと主張しているとロバノフ氏は指摘している。

「今のところ、放出は違反なく行われています。ただし、何らかの事故が発生したり、技術上の違反や制御を超えた放出もありえます。近隣諸国が警鐘を鳴らしているのにもそれなりの理由があるのです。 なぜなら、こうした自然に対する実験で影響を蒙るのは日本だけではありません。海の資源はみなが共有しているからです」

沿海地方知事から感謝状を受け取るゴリャチェフ氏。同地方海域の放射能汚染状況の定期的調査への謝意。

政治が研究を妨げている?

ロバノフ氏は、ロシア人研究者らは日本海、太平洋の研究に関しては、以前は長年にわたって日本の様々な組織と協力を行ってきたと振り返っている。

「例えば、1990年代半ば、私たちは日本の総理府環境庁(現・環境省)との協力を開始し、日本からウラジオストクまで、日本海全域の水と底質を採取する合同海洋調査を行いました。過去20年間は金沢大学と協力し、アジアの周縁海域の自然環境をモニタリングする研究室を立ち上げました。現在は、こうした積極的な協力関係はありません」

現在はロシアは同種の調査を中国と続けているが、一方で、日本、韓国との学術プロジェクトは一時停止状態にある。
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