伊予ヶ岳千葉県の山々
千葉県は観光客にとってはまさしくパラダイス。巨大なディズニーランドに加え、全長66キロにも及ぶ日本最長の砂浜の九十九里浜がある。九十九里浜はウォータースポーツ愛好家には大人気スポットだが、実は千葉の格別な魅力は他にある。それは山だ。千葉県には日本で唯一、標高500メートル以上の山がない。にもかかわらず、この県の名は理想的な山岳ツアー地として世界的に知られている。
鋸山
千葉県で最も人気が高い山のひとつが鋸山。標高はわずか329メートル。苦も無く登山できるが、頂上からの眺めは日本一の絶景といっても過言ではない。登山は徒歩でもケーブルカーでもできる。
高宕山
高宕山の標高は鋸山に比べ、わずか1メートル高い。野生動物が多く生息しており、特に野生のサルの個体数が多く、豊かな森林植物が原生状態で保存されていることから、1956年、県立高宕山自然公園に指定された。
富山
富山(とみさん)には2つの峰があり、北峰は標高349メートル、南峰は342メートル。山麓は鬱蒼とした広葉樹林が広がり、山岳植物の花の香りに満ちている。富山は県立富山自然公園に指定されている。
伊予ヶ岳
伊予ヶ岳が他の山と異なる点はプロの登山家にも普通のハイキング客にも適していることだ。整備された山道のすぐ脇に専門の登山用具を使わないと登れない場所がある。標高336メートルの山頂にはベンチとテーブルが完備されており、360度のパノラマを楽しみながら一服できる。
烏場山
烏場山(からすばやま)は標高266.6メートル。1975年に整備されたばかりのハイキングコースには3つの展望台があり、太平洋や周囲に広がる丘陵地帯、町並みを見渡すことができる。
御殿山・大日山
御殿山は標高363.7メートル、大日山は333メートル。両山とも千葉県の山岳地帯の最深部に位置し、ハイキングに最適。大日山には7つの滝があり、森を流れる川で泳ぐこともできる。御殿山には美しい花畑が広がり、咲く花は驚くほど豊かで旅行者を魅了している。
大福山
大福山は標高292メートル。手つかずの自然が残る保護区があり、観光客に人気が高い。一番の名所は渓流で、滝に清流が流れ込む様子は美しい。山頂へのハイキングコースには、岩だらけの険しい川岸に沿って続くルートがある。観光客は登山と梅ヶ瀬渓谷の散策を組み合わせることが多い。特に紅葉狩りの季節、渓谷の美しさは格別。
愛宕山
標高408.2メートルの愛宕山は千葉県の最高峰。風光明媚な愛宕山は、かつては普通に入山ができたが、1955年、米空軍が戦略的に価値が高いとして、基地を建設して山を占拠した。後日、基地が日本の航空自衛隊に移管された後も、愛宕山は自衛隊の事前許可がなければ入山はできなくなった。ただし、入山許可を得たとしても、写真やビデオの撮影は禁止されているため、観光客にとっては気ままに過ごせる場所ではなくなった。
人気の登山ルート
山でのアウトドア愛好家に人気があるのは鋸山へのハイキング。好きな登山ルートを選ぶことができ、特に人気が高いのが岩壁に彫られた大仏とそれを取り囲む古い寺の脇を通る道。早く山頂の大パノラマ景観を楽しみたいという人は、直行できるケーブルカー登山を選ぶ。高宕山は長距離ハイキングを楽しむ人たちに人気。最も人気があるのは6.1キロのハイキングコースで、2時間半で登りきることができる。ただし、山頂付近は岩の絶壁でプロの登山家以外には推奨されていない。富山は主にハイキング客に人気。2つハイキングコースは、それぞれ富山の南峰と北峰に通じている。登りに2時間、下りに1時間30分かかる。
伊予ヶ岳の登山ルートは2本で難易度が異なる。1つは麓から中腹までのルートで、もう1つは麓から山頂まででこちらのほうが難易度が高い。難易度の高い方のルートは、登り下りで2時間、全長2.3キロメートル。
烏場山には、花畑を抜けるルートと、高さ9メートルの黒滝を脇を通るルートがある。どちらのルートとも登りに約3時間、下りに約2時間がかかる。
御殿山と大日山は隣り合わせに聳えているため、観光客には片方の山からもう片方の山へ移るトレッキングが好まれている。登山の所要時間は約3時間10分で半日あれば足りる。御殿山は大日山よりも標高が高いため、普通は御殿山から登り始めるよう推奨されている。
大福山の麓までは風光明媚な梅ヶ瀬渓谷を通る便利な道がある。この道は車でも通れるため、渓谷から山頂を目ざすことができる。ルートは2時間半。山頂近くには、白鳥神社と円形の展望台がある。
愛宕山には、登山をする日の最低1週間以上前に自衛隊からの許可を得なければ登ることができない。許可をもらい、いざ登山となると、自衛隊基地は森に囲まれているため、観光客はまず2キロの林道を横断し、基地の門の前に出なければならない。そこから自衛隊員が愛宕神社まで観光客を案内してくれる。その後、山頂までは緩やかな登山道が続き、「千葉県最高峰」の標識にたどり着く。残念ながら、愛宕山では写真撮影は禁止。その代わり、千葉県最高峰登頂の記念証明書がもらえるのが唯一の慰めになる。
ビギナー向けの登山
近年、世界中で健康的なライフスタイルへの関心と、手付かずの自然と向き合いたいという願望が高まっている。トレッキング(ロングトレイル)や登山を楽しむ山岳ツーリズムは、こうした要求に十分に応えている。ただし登山の場合は、登山用ロープやフックの使用が必要な、より危険なルートを選ぶ。千葉の山ならば誰でも適切なルートを見つけることができる。
伊予ヶ岳は登山ビギナーがトレーニングをするには最適な場所と言われている。伊予ヶ岳は標高は低いが、斜面を横方向に移動するトラバースが難しい岩場もあり、初めての登山者にとっては理想的な場所だ。
クライミングウォール
© iStock.com / Drazen
同じく標高の低い富山も初心者に人気で日帰り登山が楽しめる。一見、ピクニックと大差なさそうな感じがするが、山頂の岩場や複雑にカーブした崖などの克服は初心者にはかなりの努力が必要だ。危険な断崖絶壁はないものの、斜面が険しいのと、鬱蒼とした森を抜ける道は整備されたトレイルではないため、移動はけっこう難しい。
大福山はハイキングに最適。とはいえ、急流が流れる峡谷にそそり立つ険しい壁を登って、登山スキルを磨くこともできる。
絶景の楽しめる山
鋸山の山頂の展望台は岩の絶壁から空中にせり出して作られている。足がしっかりした地面の上に立っていないため、いつ落ちるかわからないという感覚にめまいと恐怖を覚える。この場所が 「地獄のぞき 」と呼ばれているのもよくわかる。恐怖感も覚える展望台だが、ここからのビューは文句なしの絶景で大人気。海辺にむかってなだらかに下降する丘陵には光と影が戯れ、見る者の心を虜にする。眼下には太平洋と東京湾の海が太陽の光を受けてきらめき、遠くには雪の帽子をかぶった富士山が堂々とそびえている。鋸山の頂上からは、晴天には東京スカイツリーのテレビ塔も見える。麓から展望台まではケーブルカーでわずか5分。美しい写真を求める写真家たちに長く愛され続けてきたのもうなずける。
鋸山にある日本寺は創建1300年と、関東最古の勅願所。現在も僧が修行している。花崗岩の崖の真ん中にヤシの木が生い茂り、まるで絵に描いたような美しさはまさにオアシス。境内には何百体もの仏像がある。最も注目すべきは、岩に直に彫られた高さ31メートルの巨大な仏像。寺院群のある場所からは、周囲の山々や息を呑むような海の絶景も拝むことができる。
美しい景色が好きな人、珍しい写真を撮りたいという人には、高宕山自然動物園の散策がお勧め。山頂からの山海の景色も目を楽しませてくれる。天気が良ければ、遠くに富士山や筑波山も見える。高宕山は、手つかずの自然を愛する人には絶好のパラダイス。高宕山の自然動物園では原生林の中でクマ、キツネ、シカ、イノシシ、サルなどの動物が飼育されており、その行動を観察することができる。動物は自然の生息環境に最大限近いように設計された囲いの中でそれぞれ、飼育されている。自然動物園では、果てなく続く小道を散策したり、自然を眺めたり、園内のアクティビティを楽しんで一日中過ごすことができる。歴史の古いものが好きな人には、最も標高の高いところにある最上部にある観音菩薩の岩窟寺院がおすすめ。この観音像が作られたのは奈良時代で、源頼朝がこの観音像に加護を求めたと伝えられている。
標高の低い烏場山は豊かな植生で観光客を惹きつけ続けている。山全体に亜熱帯の月桂樹林、イヌシデ、常緑のブナも生い茂る。冬でも山麓の花畑は青々と咲き誇り、旅人の目を楽しませてくれる。
御殿山や大日山からの眺めも美しい。千葉県の山々から東京を隔てて臨む富士山は特に素晴らしい。
大福山への登りは、渓谷の縁をたどりながらの道だ。渓谷には清らかな沢が何本も流れ込んでいる。滑りやすい岩の上を伝って、沢を渡るには力と機敏さの両方が必要。白鳥寺では穏やかな静寂が迎えてくれる。寺院へと続く階段は、空に向かって果てなく続いているようだ。近くには円形の展望台がある。
観光客たちのレビュー
鋸山ロープウェー
© iStock.com / kuremo
千葉県の山の自然の美しさと豊かな歴史・文化遺産はいつの時代も観光客を惹きつけ、驚きを呼んできた。自分の好みや力に応じて最適のルートを見つけることができるのも、千葉県の山の魅力だ。
そこで、登山愛好者や観光客による各山を登った感想やレビューを紹介する。
鋸山
展望台からの景色は絶景。登山途中に海を一望できるのも魅力
子どもの足でも頂上まで1時間半程度。手軽に登れる
展望台からの景色は絶景。登山途中に海を一望できるのも魅力
子どもの足でも頂上まで1時間半程度。手軽に登れる
高宕山
平坦な道が多く、登りやすい コース選択ができ、初心者から上級者まで楽しめる
岩にめり込む高宕観音堂の社が見物
平坦な道が多く、登りやすい コース選択ができ、初心者から上級者まで楽しめる
岩にめり込む高宕観音堂の社が見物
富山
ハイキング気分で気軽に登れる低名山
辺りは遮るものが無く、頂上からは絶景を360度見渡せる
ハイキング気分で気軽に登れる低名山
辺りは遮るものが無く、頂上からは絶景を360度見渡せる
伊予ヶ岳
低山ながら岩場や鎖場もあり、初心者は注意が必要。「房総のマッターホルン」の異名を持ち、スリル満点。山頂の360度のパノラマビューが美しい
低山ながら岩場や鎖場もあり、初心者は注意が必要。「房総のマッターホルン」の異名を持ち、スリル満点。山頂の360度のパノラマビューが美しい
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