【視点】極超音速兵器に日本はどう対抗するか

日本と米国は、マッハ5以上の速度で飛ぶ極超音速兵器を迎撃できるミサイルを共同開発するという決定を実行に移し始めた。このGlide Phase Interceptor(滑空段階迎撃用誘導弾)プロジェクト全体の費用は30億ドル(約4600億円)を超えると推計されており、日本はそのうちの10億ドルを拠出する見込み。
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こうした迎撃ミサイルの必要性は、日米の敵国となりそうな国々がすでに極超音速兵器を保有していることからも明らかだ。ロシアの極超音速ミサイル、例えば9-A-7660「キンジャール」や3M22「ツィルコン」は配備されているだけでなく、戦闘で活用されている。しかも大量に使用されている。例えば、2024年1月2日、ロシア軍はキエフの軍産複合体に対して大規模なミサイル攻撃を行い、その中には「キンジャール」11発も含まれていた。ウクライナのデータによると、戦闘が始まってから2024年4月末までにウクライナの標的に対し使用された「キンジャール」は合計80発以上にのぼる。

撃墜は可能だが難しい

極超音速兵器を撃ち落とすことは理論的には可能。そのためには飛行する極超音速兵器になんらかの物体を衝突させる必要がある。その物体は普通の鋼片かもしれない。衝突時に、極超音速飛行の運動エネルギーは、そのほとんどが瞬時に熱エネルギーに変換され、爆発が起こる。マッハ7(時速8568キロ)の速度で移動する重量500キロの兵器の運動エネルギーは14億1600万ジュール。このエネルギーはTNT換算で307キロに相当する。
物理的原理は明らかだ。残るは、極超音速ミサイルに衝突させる物体をどのように衝突ポイントまで運ぶかという技術的な細かい課題だけである。

迎撃には次のことが必要

第一に、極超音速兵器を探知し、その軌道を追跡する。第二に、対空ミサイルを発射して迎撃用の弾頭を目標と衝突するコースに投入する。第三に、数センチ内の誤差に抑えるように迎撃用の弾頭を目標に正確に誘導する。つまり迎撃には強力で正確な追跡・照準レーダーと、軌道を極めて高速に計算するためのスーパーコンピューターが必要。
迎撃する兵器と同等かそれ以上の性能を持つ対空ミサイルが必要だ。つまり、対空ミサイルも極超音速でなければならない。極超音速の目標を追尾するコースで迎撃するためには、対空ミサイルの速度が目標の速度の1.5倍でなければならない。目標がマッハ8~10で移動している場合、対空ミサイルはマッハ12~15で追いつかなければならない。
最後に、目標との衝突を確実にするために迎撃用弾頭のホーミングヘッド(誘導装置)が必要。言い換えれば、迎撃用の弾頭は独自のレーダーと誘導用コンピューターを備えていなければならず、これらは弾頭が約700~800度に加熱される極超音速での飛行条件下で作動しなければならない。電子機器は温度がオーブンの約3倍の状態で作動しなければならない。

3つの迎撃ポイントで防衛

極超音速兵器の迎撃には、主に三つの視点がある。
1つ目は、最も初期の視点。目標に接近したところを地上のミサイル防衛システムで迎撃する。大気圏での飛行と機動の後、兵器の速度はマッハ6〜7からマッハ3〜4に低下する。つまり、既存のミサイル防衛システムによる迎撃が可能なレベルまで低下する。しかし、これにはリスクがある。マッハ3で移動するミサイルは秒速1キロで飛翔する。地対空ミサイルシステム「MIM-104パトリオット」のレーダーによる弾頭の探知距離は約70キロ。つまり、発見から命中までは1分強かかる。さらに、パトリオットのレーダーはミサイルの探知・誘導方位に制限があり、ミサイルが飛来する方向に配備する必要がある。そうでない場合、ミサイルに気づくことさえできない。
第二の視点。極超音速で飛行する兵器が大気圏に再突入する前に宇宙空間で迎撃する。この課題は一通り達成され、宇宙空間で目標を迎撃できる対空ミサイルが登場している。一方、そのためには宇宙空間で小さな物体を追跡できる強力で正確な長距離レーダーが必要となる。そのようなレーダーは非常に大きく、ミサイルに搭載することはできない。レーダーは通常、常設で運用されている。このようなレーダーを使用するためには、複雑な通信とデータ交換のシステムが必要となるため、その信頼性が低くなる。故障や妨害があれば、ミサイル攻撃を撃退することが不可能となる。
そして第三の視点。極超音速飛行中に迎撃する。目標から遠く離れた敵のミサイルの少なくとも一部を撃墜することが可能となる。ただし、海上配備の対空ミサイルの射程距離内であることが条件。
全体的に、ミサイルの迎撃を目的とした地対空ミサイルシステムの開発においては、米国が宇宙空間、極超音速飛行中、目標近くという三つの迎撃ポイントをつくろうとしているのが見受けられる。これはミサイル防衛の有効性を向上させるはずだ。

様々なプロトタイプ

新しい迎撃ミサイルが完全にゼロから作られる可能性は低いだろう。ここ数十年、米国は一般的に既存のモデルの近代化、またはあるミサイルの一部を別のミサイルに適応させるハイブリッドの開発に取り組んできた。
米国には対空ミサイル「RIM-174 SM-6 ERAM」があり、その最高速度はマッハ3.5、射程は最大240キロ。このミサイルは目標近くで敵の弾頭を迎撃する。一方、空対空ミサイル「AIM-120 AMRAAM」から取り入れたレーダーやホーミングヘッドを搭載している点で異なる。つまり、対空ミサイルと空対空ミサイルのハイブリッドだ。このホーミングヘッドがあれば、ミサイルは艦艇を介さずに独自に目標を探知し、狙うことができる。
知られている限り、米国は極超音速の飛行速度を備えたこのBlock IBミサイルの改良版を作ろうとしている。
最近テストされた2つ目のモデルは、空中発射型の極超音速ミサイル「AGM-183A ARRW」。同プロジェクトは2018年に発足し、最高速度マッハ7、さらにはマッハ20と射程距離最大1600キロを持つ、ロシアの「キンジャール」の類似品を作ることが目的とされた。一方、期待された成果はまだ得られていない。2023年12月9日と2024年3月1日に実施したテストでは、ミサイルの速度はマッハ5までしか出せなかった。2023年3月、同プログラムの優先順位は低くなり、極超音速飛行データの蓄積するためにテストが実施された。
3つ目のモデルは、ほとんど知られていない「AGM-182A HACM」。これはラムジェットエンジンを搭載した巡航ミサイルで、試作機は2021年から2022年のテストでマッハ5の速度を示した。同ミサイルはF-15E、F/A-18F、F-35への搭載が計画されている。まさにこのプロジェクトに関して、2029年までの開発予算24億ドル(約3754億円)が要求された。

対空ミサイル防衛

では、日本の防衛省の秘密の金庫を開けてみよう。上記の詳細したことはすべて、AGM-182A HACMが共同開発の可能性が最も高い対象であることを示している。
第一に、空中発射される極超音速巡航ミサイルは、空対空ミサイルAIM-120 AMRAAM と同じホーミングヘッドを装備することで、攻撃型から対空型に非常に簡単に転用できる。
第二に、このミサイルは戦闘機、主にF/A-18FやF-35B向けに設計されている。これはミサイル防衛において劇的な優位性をもたらす。空母に搭載された航空機は、日本海、黄海、東シナ海のどこにでも展開できる。空中では、例えば中国や北朝鮮から発射される極超音速ミサイルを迎撃するのに有利な位置を占めることができる。
第三に、ミサイルの探知と照準は、イージスシステム(AEGIS)を搭載した艦船と、独自のレーダーを搭載した、F/A-18F-APG-79、F-35B-AN/APG-81もしくは改良型の航空機で行うことができる。この種のレーダーは、巡航ミサイルを62キロの距離から追跡できる。衝突コースにある場合、対空ミサイルは速度が目標を追い越す必要はなく、改良型 AGM-182A HACM が自信を持って迎撃に対処できる。さらに、航空機は極超音速ミサイルの機動に対応できる。
一般的に、このアイデアは非常に有益であるように見え、極超音速ミサイルを確実に迎撃することを期待でき、同時に技術的にも実現可能である。
しかし、2029年までに開発を完了し、2030年代初頭に防衛を設置するという計画は、日米にとって良いことを示すものではない。例えば、ロシアは、極超音速ミサイルを大量に生産し、大規模なミサイル攻撃への使用に準備できる。中国と北朝鮮も、生産面で遅れをとっているわけではない。そのため、このシステムの戦闘態勢が整ったところで、一発の発射ではなく、数十発、いや数百発の極超音速ミサイルによるミサイル攻撃に直面するかもしれない。そうなれば、ミサイル防衛システムは数の優位性で勝負することになる。
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