世界経済を握るのは政治のリーダー
中国は、経済では米国の強力なライバル。2023年の世界銀行のデータによると、中国の購買力平価GDPは34兆6千億ドル。世界のGDPの18.76%を占め、世界第1位の経済大国となった。これに対して米国は27兆3千億ドル。世界のGDPの14.8%を占め、2位となった。
世界政治を牛耳るのは経済で世界を牽引する国と決まっている。米国が世界のGDPで最大のシェアを占めていた時代、例えば、世界GDP21%だった1999年は、この国の政治的リーダーシップに異議を唱える国はなかった。一方、中国はトップに躍り出ており、今すぐではないにしても、いずれ世界のリーダーとして政治の発言権を振りかざすことは間違いない。
政治を主導する国は多くの可能性を手にする。例えば、国益にかなうように国際経済関係を調整する可能性などは、米国は積極的に利用してきた。米国の指導者にとって、世界経済の調整役の役割を中国に渡さないことは、戦略的に非常に重要である。
強引な方法も含めて、米国がなんとか中国の経済成長を減速させようと躍起になるのも、これが原因である。
米国は自国による世界覇権を基本原則として公言し、武力も含め世界の覇権国であり続けることを隠してはいない。
石油、ガス、石炭の輸入に依存する中国
中国は急成長しているが、脆弱な面もある。エネルギー消費は非常に高いにもかかわらず、その大半を輸入に頼ると言う実態だ。
中国の石油消費量(2024)は8億300万トン。これは米国の1日当たりの推定消費量を1630万バレルとして割り出された数値だ。中国はこの消費量を賄うために年間2億1170万トンを生産し、5億9130万トン(そのうちロシアは1億950万トン)を輸入したことになる。つまり石油消費量に占める輸入の割合は73.6%となる。
中国の天然ガス消費量(2024)は4280億立方メートル。生産量は2464億立方メートル、輸入量は1819億立方メートル。輸入はパイプライン経由の766億立方メートルと液化天然ガス1050億立方メートルを含む。天然ガス消費に占める輸入の割合は42.2%である。
中国の石炭消費量(2024)は推定49億トン。生産量は国内が47億6000トン、輸入は5億4000千トン。報告されている統計のバランスが合わないのは、中国経済の実際の石炭消費量を見積もるのが難しいのと、おそらく国内には広大な石炭埋蔵量があるからなのだろう。石炭消費に占める輸入の割合は11%と報告されている。
中国のエネルギー資源の輸入は、主に中国東海岸に海上輸送されている。中央アジアはガス輸入において重要な拠点であり、特にトルクメスタンからは年間約330億立方メートルのガスを輸入している。これは中国のパイプラインによるガス輸入の43%、ガス輸入全体の13%、中国のガス総消費量の7.7%を占めている。
中国のエネルギー資源の輸入を阻止するか、激減少させることができれば、中国の経済成長を鈍化させることができる。だからそのためにも、米国は強力な太平洋艦隊と日本や韓国という同盟国だけでなく、中央アジアにおける軍事的・政治的プレゼンスの展開を必要としている。
中央アジアをめぐる覇権争い
地理的な理由から、中央アジアから中国へのエネルギー資源の輸入はすべて、カザフスタンと中国の国境にあるジュンガルの門と言われる山岳峠を通る。カザフスタンはトルクメスタンから中国へのガス供給の中継国であり、ロシアから中国へと西側方面からの供給もコントロールしていく可能性もある。カザフスタン産ガスの中国への供給量は約58億立方メートルと少ない。
仮にカザフスタンがガス輸送を拒否したり、厳しい条件を課したりすれば、中国にとっては中央アジアからのガス輸入は激減し、経済困難に陥る。だが、こうした政策をカザフスタンが実行できるのは米国からの直接的な軍事支援があった時のみである。
ところが米国からの軍事支援は難しい。というのもカザフスタンは四方を米国の非友好国に囲まれ、これらの国にすべての交通網を支配されているからだ。ロシアは、黒海からヴォルガ・ドン運河を経てカスピ海へ入るルートと、黒海の港からの道路と鉄道を牛耳り、イランはペルシャ湾からの道路と鉄道を支配している。米国人を自国から追い出したタリバンのアフガニスタンは、パキスタンからウズベキスタンへ抜ける高速道路を管轄している。
残るはグルジア領の黒海からカスピ海への道路が通るアゼルバイジャンだけだが、この国も最近はロシアとイラン寄りになってきている。
この30年間、米国はカスピ海地域に出るルートを開こうと数度の試みを行ってきた。これは米国が中央アジアに出るために最も有利な西からのルートとなるはずのものだった。
最初の試みは、チェチェン人に対して行われた。米国は彼らに黒海からカスピ海へかけての土地にイスラム国家「コーカサス首長国」を建国させようとしたのだ。米国はこの「首長国」と協定を結ぶはずだったが、ロシアが反乱を起こしたチェチェン人を鎮圧したため、協定は成立しなかった。
2回目の試みはグルジアの軍事化に関係している。これは2008年の南オセチア戦争(ロシア・グルジア戦争)で終わりを告げた。南オセチアに侵攻したグルジア軍はロシア軍と戦い、同地から撤退した。
3回目の試みで使われたのはウクライナだ。ウクライナはロシアを負かし、ロシアを分断させ、安々とカスピ海へ直接アクセスできるルートを米国のために確保するはずだった。しかし、ウクライナはドンバスの義勇軍を倒すことができず、ロシアとの直接的な武力衝突の中で敗北しつつある。
カザフスタンでは2022年1月に反政府デモが勃発。クーデター未遂があったが、カザフスタンの要請により集団安全保障条約機構(CSTO)から、ロシアの特殊部隊、空挺部隊、空挺突撃部隊を含む部隊が派遣され、鎮圧された。
このように今のところ、NATOの軍事インフラがある程度展開されている西側から、中央アジアに至る道を敷くという米国の試みはすべて失敗に終わっている。
現時点においては、米国指導部はいったん立ち止まり、溜りにたまった国内問題に取り組むべきなのだが、中国との問題も残っており、徐々にエスカレートしている。中国が政治的主張を行えば、これはすぐに討議の対象となり、支持を得てしまうかもしれない。
このことからウクライナ、あるいはウクライナの分断された地域、グルジアやカザフスタンを米国が再度利用し、中国の西部国境へアクセスを確保する手段にしようとする試みは、今後数年のうちに起こる可能性は十分にある。さらに米国が太平洋で著しく弱体化し、もはや中国に対する海上封鎖を保証できなくなったため、中国の東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)とチベットを不安定化を図る同様の試みがより執拗になりかねない。
米国にとってこの計画の断念は戦略的な大敗北を意味する。そしてこの敗北は、間違いなく世界の米国の主導的地位の喪失につながる。