また、独立を宣言しているドネツクおよびルガンスク両人民共和国のリーダーたちとの対話も行われていない。キエフは、「ノルマンディー4者協議」の参加者についてすでに語ることなく、紛争の他方の当事者を気にすることもなく、今回も独断で行動を決めた。その結果、義勇軍の管理下に置かれている地域は、「一時的に占領されている領土」として承認された。これに関する法改正が最高会議で採択され、ポロシェンコ大統領が署名した。誰によって「占領されたのか」については具体的に指摘されていないが、容易に見当がつく。なぜなら「占領」という言葉は、ある国の領土に別の国の軍部隊が存在することを意味しているからだ。
キエフが主張するようにドンバスが占領されたというならば、ドンバスはそこの住民によって占領されたということになる。キエフのある政治家は、ドンバスにウクライナの国旗、ウクライナの選挙、ウクライナの軍・治安部隊が戻った後でのみ、ドンバスの特別の地位について語ることができると述べた。しかし、懲罰者たちの手から解放された地域へこれらを戻すとなると、再び武力が行使され、新たな犠牲者が出るだけだ。つまり、別の方法でキエフの代表者たちがこの地に戻るのはすでに不可能なのだ。
和平プロセスの欧州の保証人であるドイツのメルケル首相やフランスのオランド大統領は、口をつぐみ、静かになった。まるで、どのように事が終わるのかを見ているかのようだ。一方でロシアは、脆弱な平和が脅威にさらされていると公言している。ロシアのラヴロフ外相は、キエフがルガンスク州およびドネツク州の一部を「占領された領土」として承認されたことに懸念を表した。これはミンスク合意に反しており、和平プロセスを崩壊させ、深刻な不安定化を新たな段階へ向かわせる恐れがある。すでに実施された選挙で勝利したルガンスク人民共和国とドネツク人民共和国のリーダーたちは、フランスとドイツに対して、キエフに働きかけるよう呼びかけている。そして、嘘、合意違反、挑発行為が政治プロセスの常軌となっている当事者との合意は、不可能であると指摘している。しかし彼らは最後の力を振り絞って、キエフが考え直す、とういことをまだ信じている。実際にまだ時間はある。夏から秋、そして冬の軍事行動においてキエフの軍・治安部隊がこうむった軍事的敗北は記憶に新しい。そして、ウクライナの軍、国家親衛隊、そして分裂した懲罰大隊が、まるで魔法の杖で振りかざしたように、突然、祖国を守るという意欲を本当に持った立派なプロとなると考える根拠も一切ない。なぜなら、実際に守らなければならないのは、大富豪やネオナチであり、殺害しなければらなないのは、全く罪のない一般の人々だからだ。無実の人たちの罪は、マイダンでのクーデターや、それに続く民族主義的な大騒ぎを支持しなかったことにあるという。
キエフは何を期待しているのか?それについて述べるのは難しい。しかし恐らく、いつものように米国に期待しているのではないだろうか。ウクライナ最高会議によってミンスク合意を台無しにする決定が採択された直後に、ジョー・バイデン米副大統領が急に登場したのも偶然ではない。バイデン氏はもちろん法律に関するキエフの決定を支持し、キエフに対して、米国の軍事専門家たちが、キエフの懲罰作戦を行う兵士の要請を即時にサポートすると約束した。
欧州が選択を迫られているのは明白だ。欧州は、本質的に米国が支持する和平プロセスの崩壊と、米国の影響下に残って安定を維持することに賛同するのか、あるいは独自の判断を下すのかを選択しなければならない。旧世界は、最初の選択肢を選ぶ可能性がある。彼らにとって、正義、誠実さ、道徳などの古くからの良識は、戯言にすぎない。