反ロシア的行動は、西側の期待や予測に反してロシアの情勢を不安定化させることができなかっただけでなく、ロシア社会の団結を促し、政府の威信を高めた。ロシア指導部が国民から高い支持を受けていることは、世論調査の結果で示されている。ロシア大統領の支持率は2014年4月から、80パーセント以下に下がったことがなく、2015年3月の支持率は、88パーセントだった。その理由は、ロシア大統領自らが強いリーダーであり、その政策が効果的であるばかりでなく、大統領の行動の全てが、世界におけるロシアの立場と権威を強化することを目的としているからだ。そしてまさにこれが、大統領を全国民的リーダーとして認識させているのだ。
これは、国民からの信頼感が低下している米国のオバマ大統領とはとても対照的だ。オバマ大統領の支持率は、歴代米大統領の中で、1974年のウォーターゲート事件以来、最低の水準となっている。ロイター通信と世論調査会社イプソスが実施した世論調査によると、オバマ大統領の不支持率は54パーセントとなっている。なお、オバマ大統領を支持しない国民の大多数が、米国の主な問題は、オバマ大統領の行動が世界における米国の威信と権威の低下を促進していることだ、と考えている。
また、たとえそれが違法であったとしても、米国のあらゆる外交政策における措置を一貫して支持している欧州の一連の国々の首脳たちの支持率にも問題があることは明白だ。多くの国で民族的志向の組織や運動の立場が強化されているのは、現代の政治過程の特徴的な傾向だ。それが最も顕著なのは、ギリシャ、ドイツ、スペイン、フランス、そして英国だ。これは、国際社会の主要国のリーダーの個人的な資質だけではなく、自国の国益と主権に対するリーダーたちの姿勢にも関係していることを示唆している。プーチン大統領の威信が高いのは、プーチン大統領が、派閥的なものや同盟的な利益などを含む何らかの利益よりも、国益を最重視しているからだ。一方で、欧州の多くの国の首脳たちは、世界における米国の指導的地位を強化するための米国の自由民主主義概念にとらわれている。これは国家主権と伝統的な価値の浸食と同じだ。
このイデオロギーの危機は、世界的な景気後退の結果として、2008年に浮き彫りになった。当時米国は、事実上、自国の「住宅バブル(泡)」によって世界的な景気後退を促進した。現在、全ての国際社会の注目の的となっている米国の「マイダンのウクライナ」プロジェクトは、米国が思いたって開始したカラー革命シリーズと同様、本質的に「バブル(泡)」と同じだが、はるかに予測不可能な結果を伴うだろう。なぜなら、国際安全保障の利益にかかわるからだ。結果、長期間にわたって世界の文明の発展の方向性を定めてきた様々な価値の再解釈や再評価が行われている。少なくとも現段階で、米国の解釈における自由主義は至る所で立場を弱め、世界史の「端」の方へ去ろうとしている。
国際社会の大多数の国のイデオロギーは、反米主義になってきている。特に顕著に表れているのが中南米だ。アジア太平洋地域でも、米国の立場は弱まっている。また米国は、北アフリカと中東諸国で、自国のカラー革命の「負の成果」を手にし始めている。その明確な証拠は、在イエメン米大使館の閉鎖と、大使館職員ならびに特殊部隊のイエメンからの退避だ。その前には、カラー革命に勝利した別の国、リビアの米大使館の職員が退避している。米国がイニシアチブをとった革命が、中東の著しい地域を網羅したことを考えた場合、今後も米国の外交任務の拡大プロセスが続くのは明白だ。
現在の状況は、新たな世界観的イデオロギーを構築する別の価値観が承認されることを予測させる。まだ名前はないものの、その基盤が、家族から全人類的文明までの伝統的な価値を認め、それを保存することへのアプローチに基づいていることはすでに明らかだ。少なくとも、一連の欧州諸国の社会的意識は、今まさにこれらの価値を求めているのだ。そして将来的に、国家主義的、民族主義的、そして孤立主義的な機運を促進する勢力が政治舞台に入り込む可能性がある。これらのプロセスは全て出現し始めたばかりだ。そのため、社会的意識の再形成が行われている今の時期は、ある世界観的イデオロギーから、別のイデオロギーへの移行期であると言えるのかもしれない。