もしクリントン氏が大統領に選出されたら、野党・共和党の強硬な抵抗と戦うことになる。上院は次の選挙で民主党優勢となるかもしれないが、下院は当面のところ、共和党優勢のままだ。民主党候補が大統領になると、政治は停滞する可能性が高い。「抑制と均衡」という米国のシステムの中では、大統領の自由は制限されている。したがって、いまクリントン氏が何を公約しても、空手形に終わるおそれがある。
バラク・オバマ氏を上司に国務長官を務めた時代、女史はオバマ氏の対ロ関係「リセット」を積極的に進めた。もっとも、それは女史自ら選んでその方針をとったわけではなかった。クリントン氏が国務長官の職を退くと、早速対ロ関係は悪化した。まずはエドワード・スノーデンの一件。スノーデン氏は米国諜報機関の秘密を暴露し、ロシアに亡命を求めた。スノーデン氏の後は、ウクライナをめぐる深刻な行き違い。現在、かつて両国間にあった恒常的接触が、多方面で凍結され、協力は案件ごとに単発で行われている。その一例が先日のイラン核開発をめぐる交渉である。ロシアに対しては米国の制裁が、米国の輸入品に対してはロシアの対抗制裁が続いている。
しかし、民主・共和の隔てなく、オバマ大統領にキエフへの武器輸出を求める大合唱が起こった中で、クリントン氏の声は聞こえなかった。しかし明らかに、大統領選挙の中で、民主・共和両党の議員らの演説の中に、ロシアは脅しのかかしのようにして現れるのだろう。伝統的に、米国では政権交代の後、新政権はデブリーフィング(引継ぎ)を行い、感情でなく実利を重んじながら、外交上の優先順位を付け直す
慣例では、共和党がホワイトハウスについたほうが、ロシアの協力関係は民主党より全体としていくらかうまくいく。ロシアと米現政権の関係が絶望的に悪化した現状からは、米政権にある種の変化があったほうが望ましいことである。しかし政権が代わっても、全体的な行き違いにさしたる変化は望めない。2014年12月、米議会上下両院は、対ロ制裁強化とウクライナへの武器供給を内容とする「ウクライナ支援法」を、審議さえしなかった。同法は両院によって異議なしで採択された。
2016年11月、ホワイトハウスに誰が就任しようとも、相互制裁の撤回や、両国関係の「リセット」は、期待するだけ無駄というものだ。ロシアの専門家はこのように語っている。