これについてロシア戦略・テクノロジー分析センターの専門家ヴィタリイ・カーシン氏は「そうしたミサイルの展開は、米国の中国抑止戦略がいかなるリスクに直面する可能性があるかを、また一つ物語る証しとなっている」と指摘した。
中国のミサイル力の増大は、戦略的な意味を持つものと思われる。もしミサイルYJ-18の推測されている性能が確認され、それが、様々な妨害から身を守るしっかりとした照準システムを持つなら、中国艦船は、米国の艦船と闘う手段を有することになる。これまで中国艦船が、彼らから身を守る事は極めて難しかった。
低空を超音速で飛んでくるかなりの数の巡航ミサイルの攻撃から海上の艦船団を守るのは、現在の技術レベルでは、ほとんど非現実的である。そうした状況は、例えばレーザー技術が進歩を遂げ、艦船の対空防衛領域で何らかの革命的解決法が見つかるまで、変わらないだろう。しかし、そうした飛躍的進歩が、今後15年の間に起こる可能性は、まずないと言ってよい。
ミサイルの迎撃が困難である以上、それから身を守る唯一の方法は、ミサイルが発射態勢になる前にミサイル運搬手段を殲滅する事である。パワーバランスの量的変化は、まさにその事により説明される。艦船や潜水艦船団の建造を、中国は、極めて早いテンポで進めている。052Dタイプの駆逐艦だけで、少なくとも10隻建造された。他の多くの中国艦船も、比較的完全で強力な対艦ミサイルを装備している。中国の非原子力潜水艦は、今から10年から15年前に言われていたような容易に撃沈可能な標的ではもはやない。
米国とその同盟国の中国艦隊に対する質的優位性の低下と米国艦船が持つ防衛手段の効果の減少は、明白な戦略的かつグローバルな政治的意味を有している。地域でのバランスを保持し、中国抑止に必要不可欠な力を保障するために、米国は必然的に、太平洋における恒久的な軍事プレゼンスのかなりの増強に取り組まなくてはならないだろう。
米国軍の戦略的機動性向上に対するいかなる投資も、ここでは助けにはならない。紛争のさい主要な役割を果たすことになる、全世界に散らばっている米海軍の艦船や潜水艦を、太平洋地域に瞬時に集中させる物理的可能性など到底存在しない。太平洋沿岸に基地のある航空隊や陸戦隊は、比較的早く移動させることができるだろうが、それでもやはり、そうした行動は、米国にとって本質的リスクを伴うものだ。
中国は、明らかに、戦域での米国の追加部隊の展開を失敗させるバリエーションを作り上げようとしている。そのためには、交通機関へのサイバー攻撃を組み合わせた、空港や輸送の拠点、流通の中心地への巡航ミサイルや弾道ミサイルによる攻撃もあり得るだろう。
こうした攻撃の脅威低減のため、米国にとって必要なのは、極めて重要な対空防衛と対ミサイル防衛というインフラを保障する困難かつ複雑な諸問題を解決する事である。これは、どのような場合でも、地域に常駐する米軍部隊の数の増大をもたらす。重荷の一部を同盟国に背負わせようとの試みは、限られた結果しかもたらさない。日本が、軍事支出を拡大する可能性は大きくないし、韓国に至っては、米国と中国の間をうまくかき分けて進もうといった政策を益々とるようになっている。この地域において、財政力・技術力・組織力の点で、米国には、他にパートナーとなる相手はいない。
そうした事から、中国抑止政策は、米国が世界の他の地域での安全保障活動への参加を減らせないことを考慮するならば、近い将来益々米国にとって重荷となるに違いない。今後数年のうちに、米国は、世界のどの地域にまず優先的に軍隊を置くのかという、容易でない選択を下す必要に迫られるだろう。