氏によれば、米国と中国が軍事紛争に今ほど近づいたことはかつてなかった。紛争の要因として3つの点が挙げられている。まず、米中の航空機が上空で接触する。スプラトリー諸島に滑走路と空港を建設し、さらに空母遼寧を持つ中国は、南シナ海上空の大半を管理し、そこから米機をシャットアウトすることが出来る。
軍事力の増大によって、中国は米国に対し、東南アジアからの退去を決然と要求することが出来るようになり、中東および欧州の問題に集中することが出来るようになる。これに米国が対抗措置をとり、やがて米国は、対立を軍事的に解消することを望むようになる。
米中開戦のもうひとつの要因は、中国と東南諸国の紛争である。フィリピンをはじめとする米国とパートナー関係にある諸国を守るために米国が立ち上がるかも知れない。
ロシアの著名な東洋学者でありロシア科学アカデミー東洋研究所副主任のドミートリイ・モシャコフ氏は、一番起こりそうなのは第1のシナリオである、と語る。
「米国の東南アジア政策上の最優先事項は、航行の自由を守ることである。それは米国自身の国益に関わるのだ。マラッカ海峡を通る貨物船の4分の1が米国の太平洋側の港に向けられているのだから。私見では、地域諸国の国益を守るとか、東南アジアから米国を締め出そうとする中国の試みに対する抵抗とか、そんなものは、軍艦を含め船舶の航行の自由を守ることに比べたら、さしたる意味を持たないのである。中国はパワーを増し、やがて、かつては形式的なものに過ぎなかった南シナ海の島々および大半の海域に対する領有権主張を、現実化するであろう。ここは自分の領土だと、ただ主張するだけで、現実にはそれを守ることも、管理することも出来ない、という時代は、終焉に向かいつつある。哨戒船や哨戒機の数的増大、基地の建設など、全てはこの方向に向かっている。外国船および外国機の通過が禁止され、中国から見て違法な行動に対しては、ミサイルが発射され、戦闘機が送り込まれるという時代が本当に到来するかも知れない。そのとき極めて深刻な事態が発生する。今後数年のうちにそうなりかねない」
モシャコフ氏はこう語った。