米国防総省は2000年から、ロシア製ロケット・エンジンを購入し、それらを、軍事用も含めた人工衛星打上げのために使用してきた。しかし昨年12月、米国議会は、ロシア製エンジンの購入を禁止し、その代りに、新型の国産エンジン開発予算として2億2千万ドルの拠出を決めた。
しかし、今後数年の間に、ロシア製のものに完全に代りうるエンジンを現実に作るなど無理な話である。先月5月、カーター国防長官と連邦政府において情報機関を統括するクラッパー国家情報長官は、議会に書簡を送り、その中で「ロシア製のエンジンが無ければ、人工衛星などの打上げを保障する上で、米国は甚だしい困難に直面するだろう」と指摘した。
米国政府高官らのこの声明は、議会では、宇宙領域においてはロシアへの依存度を極力少なくすべきだと訴える議員達の激しい反発に遭った。しかし航空宇宙分野で最も影響力を持つ2大企業、ボーイング社とロッキード・マーティン社は共に、国防長官と国家情報長官の支持に回った。そのため、あらゆる事から判断して「米国にはロシア製エンジンが必要だ」との意見は、対ロシア制裁中であっても、優先される可能性がある。
話題となっているロシアのエンジンとはRD-180のことで、強力な液体燃料ロケット・エンジンの開発・生産を主な事業とする企業NPO(科学生産合同)「エネルゴマシ」が製造している。なお、このRD-180の力を借りて、ボーイング社とロッキード・マーティン社による合弁企業United Launch Alliance (ULA・ユナイテッド・ローンチ・アライアンス)は、衛星を打ち上げており、国産エンジン開発を明らかにしている民間企業SpaceXとライバル関係にある。
今のところ、国産エンジンの開発について明らかなのは「そうした意志示された」という事だけだ。現時点では、米国の企業は、技術的にあらゆる点から言ってRD-180に匹敵するような性能を持つロケット・エンジンを提供できないのが現実である。