元IMF日本代表理事で現在、キャノングローバル戦略研究所の研究主幹をつとめる小手川 大助氏は、石油価格も今後のシェールガスの採掘プロジェクトに影響するとの見方を示している。
「展望がいいか悪いかは石油価格によります。石油価格が現在のように低ければ展望はありません。石油価格が75ドル以上にならないとシェールガスは利益がでませんので、だめになっていくと思います。今後、石油価格が75ドルの水準の上になるか下になるかによります。」
小手川氏は、キャノングローバル戦略研究所にサイトに発表の論文の中で(http://www.canon-igs.org/column/network/20150515_3109.html) 次のように指摘している。なおこの論文は小手川氏によって、ロスソトゥルードニチェストヴォ(CIS同胞者問題および国際人道協力担当連邦局)の東京代表部に送付されている。
- 石油価格は2014年6月の105.24(WTI)米ドルから直近では52ドル台まで下落しています。この背景には需給関係についてのコンセンサスがある。中国の経済成長率の鈍化をはじめ、新興国の需要の伸びが大きく見込まれない中で、供給は米国のシェールオイルの増産を主要な原因として大幅に増加している。このような状況で、中東産油国が価格維持のための減産を見送っているからである。11月27日のOPECの会合でも、サウジアラビアが減産に強く反対し、石油価格は下落の一途をたどることになった。
シェールオイルの損益分岐点はバレル75ドルであるので、現在の価格水準はこれを大幅に下回っており、よほど効率のいい採掘場でないと利益は期待できない状況になっている。このような状況下、既に11月からシェールオイルの生産基地では従業員の解雇が始まり、現在の状況が継続すれば2015年には40万人が職を失うという試算が発表されている。
また、フューチャーマーケットでシェールオイル関連のデリバティブを購入している米国の大手投資銀行に甚大な影響が出るのではないかと危惧されている。デリバティブの基準価格はバレル85ドルに設定されているため、現在の価格が継続すると、満期が到来する2015年暮れから2016年春にかけて、大手投資銀行は多額の損失を計上することになり、破たんする可能性もある。投資銀行の中には10兆円のエクスポージャーを有するものがある。そこで、この問題に対応するために、米国議会は、2014年12月に下院、2015年1月に上院で急遽ドッド・フランク法を改正し、それまでセーフティーネットの対象外になっていた石油や穀物などの商品に関するデリバティブをセーフティーネットの対象とした。したがって、万一投資銀行が破綻の淵に瀕しても、法律上は救済できる仕組みが整えられている。しかしながら、リーマンショック時の救済に続いて2回目の救済となること、米国内の金融機関に対する批判の高まりを考慮すると、政治的観点から見て、救済が可能かどうか、また救済するとしてもそれに伴う銀証分離の可能性など、不安要因にはいとまがない。
今年春のIMF総会時のGFSR(Global Financial Stability Report)はシャドーバンクや投資信託と言った、規制されていない部門への投資の拡大と、それに伴うリスクの増大に警鐘を鳴らしている。その関連で、石油産業に対する貸付残高が、リーマンショックのころの2.7倍と大幅に増大していることを指摘している。
2013年から米国連邦準備制度理事会はシェールオイルや風力発電、太陽光発電といったエネルギーセクターに主として向けられた多額のレバレッジド・ローンをやめるように勧告をしていた。石油産業は過去10年にわたり多額の借金をする一方で配当を行うとともに株を買い戻してきており、他にめぼしい投資対象がない中で、シェールオイルブームは石油産業に対する多額の貸付をもたらしたのである。今後、この貸付がどうなっていくか十分注視する必要があろう。