Q: 安倍首相はG7の前にウクライナでポロシェンコ大統領やほかのリーダーと会談を行いましたが、あなたの意見ではなぜ今日本の首相はウクライナを訪問したのだと考えますか。また安倍氏はウクライナの指導部に何らかの影響を及ぼすことはできますか?
A: 「安倍首相がウクライナを訪問してポロシェンコ大統領と会談したのは、ドイツにおけるG7首脳会議の直前の6月6日でした。その理由は2つあります。
第1は、G7首脳会談の場においては、当然のことながら、ロシアとウクライナの関係が主要議題になるわけです。日本とウクライナは遠い国で、政治・経済関係も弱く、日本にはウクライナ問題で発言する権利は無いという見方もあります。日本の首相としてはそのような見方を否定して、ウクライナの最新の情報を基に、国際秩序の確立に関して日本も発言権を持つことを世界に示そうとしたと考えられます。
第2は、安倍首相は『今の状況では不可能だが』としながらも、プーチン大統領を今年日本に招待する可能性や、来年の日本でのG7サミットへの招待の可能性を検討しています。これは、日本はロシアに甘くウクライナの立場を理解していないという国際的批判を招く恐れもあります。
また、ロシアのラヴロフ外相は、『プーチン大統領が日本を訪問してもウクライナ問題とは関係ない』という発言をこれまでにしています。したがって安倍首相としては、プーチン大統領を日本に招くとすれば、当然のことながらウクライナの立場も十分理解しているし、ウクライナ問題について日本の意見をプーチン大統領にしっかり述べたと、国際的に発信する必要もあります。そのためのウクライナ訪問でもあると思います。
ウクライナの指導部への影響力ですが、今回の訪問で新たな財政支援も約束しました。当然、ウクライナが腐敗、汚職体質を改め、真剣に政治・経済改革を実施することが前提となります。そのような面で、日本が多少とも影響を及ぼすことが期待されます。」
Q: 現在、ドンバスの状況は緊張が高まっています。専門家の中からは、すぐにも新たな戦争が勃発する危険性も指摘されています。
現在ウクライナ軍はミンスク合意に違反し、ドンバスとの境界線の近くに大砲、ミサイルなどの重火器を集めているというのが、その考察の理由です。ウクライナ軍が進軍すれば、義勇軍も報復にでます。ところが西側はその罪を今まで通りロシアになすりつけます。
新たな戦争となれば、西側諸国は新たな対露制裁を発動するでしょう。この際に日本は新対露制裁を支持しますか?
A:「最近またドンバス、ウクライナ東部で戦闘が続き、ミンスク合意が遵守されていない状況があります。ロシアではウクライナ軍が合意を破っているという見方が流布していますが、日本を含め西側では、ロシアが親ロシア派武装勢力を支援し続けているがゆえに、ミンスク合意が事実上破られているという見方が強いわけです。
日本の安倍首相が、ウクライナ東部の危機が続いて、G7が制裁強化をせざるをえない状況にはなって欲しくないと思っているのは事実です。というのは、プーチン大統領を今年中に招きたいという意思を持っているからです。対露制裁がさらに強まるという状況がもし起きるならば、もちろんプーチン大統領を招くことができないわけですから、そうならないことを安倍首相は望んでいると思います。
もっと言えば、プーチン大統領を日本に招くことができるかどうかということよりも、実質的にウクライナ東部での混乱が収まりウクライナをめぐる国際秩序が安定することが大事で、これを日本国民も私も強く望んでいます。ウクライナの親露派武装勢力とウクライナ軍の抗争が続き、対露制裁が強まるという状況になるのは望ましくありません。
ロシアではウクライナの混乱は「米国などの陰謀」という見解が強調されています。たしかに、NATO拡大問題やミサイル防衛(MD)問題で、欧米がロシア側に十分配慮しなかったのは事実であり、ロシア側の被害者意識も理解できます。そしてウクライナ政権にも、ロシア語に関する政策などでは間違いもあり、ウクライナ政府も当然ミンスク合意達成のために努力をすべきです。
Q: 現在ウクライナは資金を必要としています。これに対し、日本はある程度まで供与するつもりです。あなたの意見ではウクライナ危機の解決のために、日本とロシアはどういった協力ができると思いますか?
A:「日本は今ウクライナに資金供与を提案しています。しかし先に述べたようにウクライナでは汚職問題が非常に深刻で、根本的な政治・経済改革を実行しないと、日本やEU、IMF、世界銀行などが資金援助をしてもあまり意味がありません。日本の資金援助が、そのような改革を促すことを条件にして、実際に改革が進展することを期待します。
ウクライナ危機に関して日本とロシアが協力可能かという問題について、私は次のように考えます。日本は、中国や他の隣国との緊張関係を考えると、また経済その他の面でのロシアとの協力の重要性を考えると、長期的・戦略的にはロシアと良好な関係を構築することが重要です。
しかし、ロシアとの間で領土問題を抱える日本としては、日中間の尖閣問題などをエスカレートさせないためにも、ロシアによるクリミア併合やウクライナの主権侵害など個々の問題に関しては厳しい態度を取らざるを得ません。逆に今の状況で日本政府がロシア政府と協力関係を深めることは、ロシアのクリミア併合やウクライナ東部への介入を日本は容認していると国際的に見られる可能性があります。したがって、現在の国際状況の下で日本とロシアがウクライナ危機の解決のために協力することは、難しいと考えます。
ただ、文化交流、学術交流、地域交流その他の民間レベルでの様々な交流や率直な意見交換は、政治的に難しい時期だからこそかえって重要だと考え、個人的にもそのための努力をしています。厳しい政治状況を、国民感情の対立にまで進めるべきではありません。」