Q、安倍政権の対ロシア外交についてどう評価されますか。
A、対ロ外交を現時点では評価できません。ウクライナには「あえて」行く必要がありませんでした。これは日本として踏み込みすぎです。一方、先だってロシアの下院議長ナルイシキン氏が訪日しました。安倍首相は当初面会しない、という話でしたが、会う・会わないで二転三転した結果、ようやく会うことになりました。日本として日米関係が一番の主軸である、しかしロシアとも何とかうまくやっていかなければ…と二極の間で中ぶらりんになった結果、どちらにも「顔が立つ」ような対応をしたわけです。しかし結果としてアメリカからもロシアからも信頼を失うような状況になってしまったと思います。このような状況を作ったのはやはりウクライナ訪問が原因です。このような状況でプーチン大統領の訪日が実現しても成果を出すのは難しいでしょうし、米国からも更に信頼を失う可能性があるので、訪日を求めるのは慎重に対応すべきでしょう。
Q、日本としてはロシアに対しどのようにアプローチをするべきでしょうか。
A、ロシアの「力による領土の変更」は許されることではありませんから、日本はG7の中で協同歩調を取っていくべきです。しかし、積極的にウクライナ問題の仕切り役となって動くことは得策ではありませんでした。ロシアを刺激しすぎてしまい、結果としてビザなし交流の中止やサケマス交渉などで影響が出てきてしまっています。アメリカとも、ロシアとも、バランスを取りながら外交を展開すべきです。
Q、日ロ関係は、自身が地盤とされている北海道の経済とも密に関わっていますね。
A、ええ、行政として日ロ交流を支援していくことは重要です。北海道民も新たな市場としてロシアに魅力を感じています。特にロシア極東地域とどのように付き合うのかということは課題です。例えば旭川建設業者協会では、サハリン州と協定を結び、現地で住宅建設ができるようビジネスマッチングをおこなっています。北海道銀行も国際部にロシア室を設置し、貿易の促進をはかっています。これらを後押しすべきだと考えています。
また、二国間関係だけではない。中国との関係について石川さんは次のように指摘している。
今、日本として一番考えなければならないのは中国の脅威です。今年の5月9日、対独戦勝記念日にはお互いに戦勝国、ということでプーチン大統領と習近平国家主席の友好がアピールされました。しかしもともと、ソ連と中国は戦後の諍いが長かった国同士です。地政学的に考えれば敵の敵は味方です。日本はもう少しロシアとの友好関係を構築し、中国と対抗していく、ということも戦略として必要だと思います。日ロ関係があまりにも悪くなりすぎれば、中国を喜ばせるだけです。対中国の外交政策を考える上でも、ロシアと友好を保つということは大きな影響があり、対中政策の鍵になります。
ロシア人とつきあうには、日本的な物の見方、自身の発想を変えなければいけない。石川さんは自身が主催したセミナーにおいて、「ロシア人から見た世界地図」を配布した経験があるという。私たちは普段、日本が中心でロシアが左上に位置する地図しか目にしない。しかしロシア人の世界地図は全く逆で、北海道は左下、日本列島は右上に伸びていく。地図の比較はあくまでもきっかけにすぎない。大事なのは、少し視点を変え、ロシア人の気持ちになってみることだ。ロシアは未だかつてないほど中国に接近している。この方針転換をもたらしたものが何かを理解することが、今、日本の対ロ政策に不可欠だ。
聞き手:徳山あすか