アジア太平洋地域では、軍事同盟創設の必要性を正当化するため、ウクライナ危機を背景とした反ロシア的レトリックを使う以外に、米国は、中国の脅威という「こけおどし」を利用している。しかし、これについてロシア戦略調査研究所付属アジア・中東センターのアジア部長、ボリス・ヴォルホンスキイ氏は「それは、あまりうまく行っていない」と見ているー
「欧州と違ってアジア太平洋地域では、中央条約機構(1959年に成立したイギリス・イラン・パキスタン・トルコ4か国による反共軍事同盟で1979年のイラン革命により解体)やアンザス(オーストラリア,ニュージーランド,アメリカ間の太平洋安全保障条約及び3国軍事同盟)などは別として、全体として明確に対立するブロックは、これまでなかった。しかしこうしたブロックは、事実上、過去のものとなってしまった。
西側では、かくも多く語られる『ロシアの孤立化』政策を見れば十分だろう。米政府の圧力はあるが、対ロシア制裁に加わったのは、唯一日本だけだ。それも多くの点で、止む終えずだった。日本の政治家や専門家達は、何度となく『同盟国としての義務から余儀なくされたものだ』と強調しており、実際上日本は、ロシアとの建設的協力の発展を欲している。
日本同様、地域における米国の戦略的同盟国である韓国はどうかといえば、米政府の意見を単に無視して、制裁に加わらなかった。逆に韓国政府は、こうした状況の中に、ロシアとの協力の新しい可能性が大きく開けるのではないかと期待している。」
ラジオ・スプートニク記者は、再びロシア戦略調査研究所付属アジア・中東センターのボリス・ヴォルホンスキイ氏に意見を聞いたー
「こうした紛争の中でも、米国は、中国に対抗する国々を支持しているが、現時点では、こうした紛争は、何らかの大規模紛争には発展していない。ライバルに合わせて行動がなされており、競争と協力が同時におこなわれている。パワーゲームもなされているが、今のところホットな段階には達してはいない。
日本にとって現在最も肝心なのは、地域の大国としての自らの地位を強固なものとする事だ。ここにおいて、日本と米国の戦略的目的は、かなりの程度合致している。なぜなら両国の共通した戦略的な目的は、中国を抑え込む事だからだ。しかし具体的実現の過程で、日本も自分のゲームを試みている事が、顕著になっている。日本政府は、実際上、アセアンを中心とした東南アジア諸国との関係を発展させている。またインドとの関係も積極的に発展させ、地域における日本の役割や重要性を強化したいと考えている。」
しかし、地球全体の新しい地域で潜在的な敵を一掃したいと望んで、米国が親米諸国からなる同盟を作ろうと今後も試みるだろうことは、ほとんど誰も疑ってはいない。アジアでは、オーストラリア、日本、韓国が、欧州ではNATOが、中東ではイスラエルと湾岸の首長連邦国が、その対象だ。その一方で、ますます多くの国々が、米国政府が、ペンタゴン(米国防総省)が世界中で展開する作戦に他の国を参加させ、自分達の財政的負担を軽くするためだけに、そうした国々を戦略的同盟国に変えようとしている事実を理解しつつある。そうした米国の考えは他の国々にとって、今や益々頭痛の種となっている。