モスクワ国際関係大学国際問題研究所の上級学術専門家、アンドレイ・イヴァノフ氏は、日本の新「防衛白書」についての情報がマスコミに漏れたのが、米国防総省が新国家軍事戦略を公表した翌日であったことは特筆に価するとして次のように語っている。
「米国の新国家軍事戦略は『ロシアのような修正主義的国家』に対抗するものととらえられている。米国の軍事戦略家の意見では、『イスラム国』と同様、ロシアは国際規範および現代の国際秩序に挑戦を投げかけていることになっている。米国が敵として挙げているのはロシアと、『イラクとレバントのイスラム国(ISIL)』のほかにイラン、北朝鮮と中国。そしてこの『問題国』のリストの、おそらくイランを除くほぼ全員が日本の『防衛白書』のほうにも列挙されている。
北朝鮮は核爆弾で世界を脅かしているのは単に、北朝鮮自身がセルビアやイラク、リビアで行われたような米国による体制変換を極度に恐れているのがその理由であることは明白だ。南シナ海における中国軍の活発化による脅威も誇張して表現されている。最近まで中国はこの地域の諸国と交渉を行い、地元の天然資源の共同利用について合意しようと試みており、米国が、そして米国の命令で日本が、論争で中国に反対する側に立ち、南シナ海に日米の軍艦が出現するという脅威が生まれるまでは基地建設も開始してはいない。」
日本の有名な政治家、浜田和幸参議院議員は、ロシアや中国の脅威を除去するためには自国の軍事力の強化を図るのではなく、オープンな対話が必要との考えを示し、次のように語っている。
「私の考えではそういう問題を解決する上で、ロシア、中国と信頼関係を結ぶことではじめて抑止力が発揮できるんですね。だから一方的に中国の脅威を騒ぎ立てることで問題が解決するとはとても思えません。総理とすればもっと対極的な観点から中国との首脳会談でしっかり話し合う、プーチン大統領に日本に来てもらっていろんな課題について真摯に話し合う事が大事です。それをやらずに中国が軍事的拡張路線をとっているとか、北朝鮮が危ないとか、ロシアが危険だというのは地域全体の繁栄のためには役に立たないと思います。」
イヴァノフ氏は、日本の新防衛白書における深刻な脅威は実際、「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」だとの見方を示し、次のように語っている。
「ISILは実際、現代の人類社会に脅威を投げかけている。脅威を投げかけているのはキリスト教世界、ユダヤ教世界に限らない。イスラム教の伝統的な基礎に依拠するイスラム教世界もその対象となっている。それゆえ、日本をはじめとする西側社会は、自分たちがISILを萌芽の段階で潰す機会を逸しており、今となってはロシアと中国の力なしにこれに対抗することは不可能と理解せねばならない。仮に西側がロシアと中国を敵とみなし、これとの対抗準備のために力を費やすのであれば、ISILは自分のポジションを強化するための格好の機会を得ることになる。タリバンや他の急進主義的組織、テロ組織はもともとソ連と対抗するために米国のCIAが産んだものであり、それが今度は米国にその矛先を突きつけていることは忘れてはならない。これと同じことがISILを相手にしても起こるだろう。」
イヴァノフ氏は、日本の新「防衛白書」および米国防総省の国家軍事戦略のテキストが示したのは、日本と米国の指導部の思考が冷戦時代の紋切り型へと回帰している事実だと語る。急進主義者やテロという敵がいる以上、新たな冷戦で勝利するのが西側ではないことは間違いない。