拉致被害者問題が存在することについて、北朝鮮側がこれを認めたのは金正日政権時、2001年に当時の小泉首相の北朝鮮訪問でのことだったが、それ以降、この問題は日朝の二国間関係を複雑化させる深刻な要因のひとつとなった。当然ながら人間としての感情から日本人外交官、政治家らが国内世論に反応を示し、この問題について北朝鮮とのほぼあらゆるコンタクトのなかで取り上げたために、例えば北朝鮮核問題交渉などは、寸でのところで決裂の憂き目に何度も直面してきた。
ロシア科学アカデミー極東研究所、朝鮮モンゴル課のアレクサンドル・ヴォロンツォフ課長は、現在、多くは日本政府と日本の世論が調査書提出期限の延長を求める北朝鮮の要請にどう反応するかにかかっているとして、次のように語っている。
「朝鮮民主主義人民共和国が日本に対し、調査の中間報告の提出期限の延長を求めたという知らせは、テーマの複雑性からして注目を集めた。テーマは、北朝鮮側、日本側が挙げる拉致被害者の数が食い違っていることからして、すでにもう、今までに出された証拠は不十分だとされている。
元をたどれば、そもそも数が食い違っているためにこうした調査を行う決定がなされたのだ。調査が遅々として進まないのは、ひとつには、かなりの時間が経過し、証拠収集が難しいという客観的理由があり、さらには政治的な理由もある。
日朝関係は複雑だ。日本は北朝鮮に対して発動される国際制裁のすべてに組しているほか、日本独自の一方的な制裁も発動した。先日東京で在日北朝鮮人の組織である『総連』の指導者の息子が逮捕された。総連指導者の息子の逮捕容疑は、中国産と偽り、制裁対象である北朝鮮産のマツタケを日本に輸入したことだった。弁護士数人はこの容疑は根拠なしと判断しており、逮捕劇は完全に政治的なものとの見方を示している。
逮捕に対する北朝鮮の反応は極めてネガティブなものだった。日本政府が北朝鮮にシンパシーを抱く在日朝鮮人に対して行う、いつもの弾圧強化の一段階だと捉えられた。こうした条件ではたして拉致被害者問題で協力を続けることが可能かどうかは疑問だ。このため北朝鮮側からの声明は、にもかかわらず北朝鮮が日本と拉致被害者問題で協力を続ける構えにあることを示す、前向きな兆候と捉えるべきだろう。」
Q:調査が続けられた場合、その結果が日本の期待にそうものとなることはありえるか?
「この問いは非常に難しい。日本には多くの社会組織があり、それぞれが挙げる拉致者の数には違いがある。なかには信じられないくらい大きい数字を挙げ、数百人も拉致されたと主張する者もいる。このため、全員を満足させることはできない。しかも日本の中にはこの問題を積極的に利用している政治勢力があり、それらは日朝関係正常化には全く関心を抱いていない。このため拉致問題の早期解決、しかも万人を満足させる解決が出てくるとは機体しないほうがいい。この問題で進展が望めるとすれば、それは日朝の国家関係と関係したものだ。国家関係がよくなれば、雰囲気もよくなり、この問題を満足いくかたちで解決しようという政治意思も出てくるだろう。」