「強制労働に連行された朝鮮人は5万9千人に及ぶ。このため韓国、北朝鮮の市民にとっては普遍的価値を強調するために設けられているはずの文化遺産施設にこうした歴史を持つ場所が含まれることは、朝鮮人の運命に対する侮辱であるばかりか、日本によって被害を被った中国や他のアジア諸国民族に対する侮辱でもあると思えるのだ。
これらの施設をユネスコの世界遺産に登録するために日本政府はforced to work(労働を強いられた)という表現を主張した。ところが韓国ではこの表現は自分の意思によるものではない、強いられた労働(forced labor)だと理解される。つまり、韓国側が当初から提案していた定式ではあるものの、ユネスコ世界遺産委員会側からの要請によって、多少中立的な表現に置き換えられた。ところが世界遺産への登録が発表されてから1日もたたないうちに、日本は自ら使用した表現のforced to workの解釈を、あたかもこれは労働の不自然な性格を排除した解釈であるかのように押し出した。
これによって、これは日本が最初から仕組んだ戦略であったことが発覚し、これが韓国人の怒りを呼んだわけだ。
強制労働および慰安婦に対する補償問題を韓国はすでに1965年の段階で提起している。その後、2005年には政府レベルで、日本は犠牲になった個々の市民に対して追加補償を支払わねばならないことが明らかにされたが、2012年、韓国の最高裁は公式的な決定を表し、犠牲者個人への支払は最終的には行なわれなかったことを明らかにしている。
このようにして日本の行為は朝鮮人を強制労働に引き入れたことを認めないために念入りに計画されたものと解釈ができる。これは東アジア諸国間の関係で信頼を損ねるのみならず、日韓の友好関係の回復には再び障害物となってしまう。現在、韓国人の大部分は歴史問題と外交問題を分けて考えるよう努力しているが、現在の状況は非常に重要であり、多くの点で日韓協力の今後の発展を決定するものとなる。」
ロシア科学アカデミー極東研究所、日本調査センターの専門家、ヴァレリー・キスタノフ氏はこのエピソードは日韓関係にある問題を、長年にわたる慰安婦問題をめぐる論争と同様に明らかに反映しているとして、次のように語っている。
「慰安婦問題がこの2つの国にとってどれだけデリケートなものであるかを物語るひとつの事実を語ると、パク大統領は先日、この問題は解決に近づいており、進展があるという声明を行なっていた。その後、菅官房長官はいかなる進展もなく、日本側は依然としてこの問題はすでに解決済みという立場をとっていると語った。世界文化遺産もこれと同様に、韓国側は日本の提案の後、あたかもクレームを取り下げたかのようだったが、これはつまり世論も変わったというわけではない。なぜなら、政府が何らかの決定を採った後、世論、マスコミがこれに猛然と反対することがしばしばあるからだ。まさにこれが今、韓国で起きている状況なのだ。このため、この問題は解決済みではなく、韓国政府は世論の圧力でそれに戻らざるをえなくなることもありうる。」
韓国政府が慰安婦の問題を忘れることができないのは世論の力によるだけでなく、日本人政治家、たとえば岸田外相などの発言がそうさせているのだ。日本の代表らが日本は朝鮮植民地支配の時代、強制労働を強いたことを認め、日本の支配による犠牲を記憶するため特別な情報センターを創設することを約束した直後に、岸田外相はこうした声明を事実上否定したことになる。
ところがこの問題では中国はすでに韓国への支持を表明している。中韓の代表者らは奴隷的労働を使用した例は日本がユネスコへの登録申請を行なった23の施設のうち7箇所で見られる。これについてキスタノフ氏はさらに次のように語っている。
「ついこないだ、中国のある女性が自分の父親が日本によって炭鉱での強制労働に連行されたとして日本政府を訴えた。これは同じような感情を中国ももっていることを表している。このため、この問題はこの先も両国関係を一層複雑化させていくだろう。」
ロシアの専門家のなかには慰安婦問題のようなテーマを解決済みとし、日本が公式的謝罪を行なわなかった時のみ取り上げることができるようにすべきとの見解が聞かれる。だが、最も重要なのは日本の政治家らが、20世紀前半に日本がアジア諸国に与えた苦しみの事実に対して常時疑問を呈するのを止めることだろう。」