法律家のイリヤ・レメスロ氏によれば、国際法廷とは、国際犯罪を犯した疑いのある人々を裁くための特別法廷である。法廷は国連安保理の決議によって開設される。また安保理は、法廷の規則をも定める。国際法廷は、問題となる犯罪が大規模かつシステマチックなものであり、かつ、その犯罪の現場となっている国が、市民の権利を守ることが出来ない状態にあるか、あるいは違法行為に自ら参加している場合に開かれる、例外的な措置である。
歴史上、国際法廷が開かれた例は少ない。ドイツのヒトラー政権を扱うニュルンベルク裁判、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷、ルワンダ国際戦犯法廷が、その数少ない実例である。こうした法廷は、平和や人道に対する犯罪、ジェノサイドその他、市民に対する暴力を裁く権限を与えられる。
こうした犯罪はドネツクおよびルガンスク両人民共和国で定期的に行われている。ウクライナ政権による非人間的行為については、多くの国際オブザーバーが報告を上げている。たとえば、6月1日、国連人権高等弁務官事務所は、「ウクライナ東部紛争で、昨年4月半ばから今年5月30日までの期間に、少なくとも6417人が死亡、1万5962人が負傷した」とのデータを発表した。あくまで「控えめに見積もって」の数字であり、実際の死傷者数はこれよりはるかに大きいかも知れない、との但し書き付だ。報告書を作成した国連の監視使節は、居住区への発砲、処刑、恣意的かつ違法な人身拘束、社会権・経済権への侵害もしくは剥奪など、深刻な人権侵害について、数々の証拠を集めている。
ウクライナ政権の行為を総合すれば、それはジェノサイドと認定するべきものとなる。なぜならウクライナ政府はドンバスに暮らすロシア系住民を絶滅させるための条件を、合目的的に創りだしているからだ。政府高官もそれを公然と認めている。たとえば、2014年9月13日、ウクライナのポロシェンコ大統領は次のように述べた。「我々は仕事を得る。ロシア人は得ない。我々は年金を得る。彼らは得ない。我々の子どもたちは学校や幼稚園に通うが、彼らの子どもらは地下室に座る。まさにこのように我々はこの戦争に勝利する」。
なぜ今、正義を回復することが出来る唯一の国際機関が、法廷なのか?ウクライナ政権は、自らの犯罪の報いを回避するために全力を尽くしており、ウクライナ国内ではいかなる裁判についても耳を貸したがらない。さらに、国際裁判所における責任を逃れる試みもなされている。たとえば、ウクライナは公式に、欧州人権条約の効力を停止させた。国際刑事裁判所における審理も不可能となっている。同裁判所の根拠法であるローマ条約に、ウクライナも両ドンバス共和国も参加していないからだ。
こうした状況では、国連安保理の国際法廷をを創ることが、唯一合法的かつ現実的な解決法なのである。ただし、国連安保理のほかのメンバーが、開廷に同意するかどうかは疑わしい。西側諸国は自らが後援を務めるウクライナ政権の犯罪に対し見て見ぬ振りを決め込んでいる。しかし、彼らは、「重大な国際犯罪にウクライナ政権が関与していることを示す証拠が数多く存在しているのにも関わらず法廷の設置を拒否することは事実上の隠蔽に他ならない」ということを理解する必要がある。しかし遅かれ早かれ、法の裁きは行われる。70年前のニュルンベルク裁判の時もそうだったように。