菅官房長官はこう述べた。「民間機関の出所不明の文書についてコメントは差し控えたい」ただし、「仮に事実であれば同盟国として極めて遺憾だ」。
「日本政府の慎重姿勢は説明可能だ。諜報そのものは異常なことでも、一方的非難を要することでもない。ある著名な政治家は言っている。もっとも日本のでなく、スウェーデンの政治家だが。いわく、諜報は国同士の知識を深め、相互理解を進める、と。米国による日本盗聴も、よい目的でなされたものだと正当化できるかも知れない。つまり、米国は同盟国としての信を日本に問うていたのであり、また日本を、両国関係に害をなすような間違った政策から守ろうとしていたのだと。なにしろ害は両国関係にとどまらず、地域全体、さらには、米国と日本のもつ重みを考えれば、世界全体の安定性と安全に関わるものになりかねないのだから。
しかし問題は、NSAが政治家だけでなく、企業に対しても諜報を行っていたということである。そうなると、もはや、パートナー企業をコントロールし、それに対する優位性を保つ目的でなされる、産業スパイ、経済スパイといった話になってくる。もっとも、このような、米国による「後見」は、日本人にとっては馴染みのものである。1983年、ワシントンの勧告を受け、日本は円価を切り上げた。これで、せっかくそれまで国際市場で米国のライバル企業を追い落とす勢いだった日本製品の競争力が一気に失われてしまった。こうして経済という戦線で、一発の銃声もともなわずに、米国は日本を撃退したのだ。21世紀初頭、米国支配をいよいよ深刻に、中国が脅かし出した。そこで米国はかつて日本円にしたのと同じことを中国元に仕掛けようとした。しかし中国は、その本質を理解して、これを拒否した。いまや中国は、世界二位の経済国たる地位を日本から奪い、首位の米国をも追い落とそうとしている。米中の競合はますます先鋭な形態をとりはじめている。
この競合で中国に負けないために、米国は日本を必要としている。日本を影響圏にとどめおくために、米国は中国脅威論を吹聴し、恐怖心をあおっている。日本はそれを信じ込む。なにしろ事実、中国の軍事力は増大しており、尖閣をはじめとする一連の領土紛争で、主張をますます強めているのだ。しかし、日本特有の忠誠心のみで安心できない米国は、アジアにおける軍事・政治両面の最重要同盟国への手綱を一層引き締めるべく、より確実な手段、諜報を用いている。今回ウィキリークスが情報公開したことで、米国が、日本の行動を監視する手段を選ぶに際しては遠慮会釈は無用と心得ていることが、まざまざと示された。もしかしたら、ペンタゴンの金庫の中に、日本におけるカラー革命のシナリオが保管されているかも知れない。あるいは、日本が米国の手を離れ、独自の路線を取り出した場合に、日本に軍事力を行使するシナリオが。おそらく安倍晋三首相とそのチームは、それをよく理解している。その上で、例によって、「事を荒立てない」ことにしたのだ。ウィキリークス暴露に対するリアクションがこれほど曖昧で、慎重なのは、こうしたわけだ。その上何が出来るだろう。なにしろ彼ら皆、とうの昔から保安官・米国の庇護のもとにあるのだから」