今や中国はこの海域に複数の人工島をもち、うちの一つには3000mの滑走路を建設している。また、人工島には、悪天候から非難し、装備を整えることの出来る、港湾も建設される。これが新たな現状だ。
米国が「人工島による地域の軍事化は許さない」と言っても、何らの効果も出ないだろう。中国の行動にASEAN諸国が憂慮を募らせているのは事実だが、対中国で結束することは今も出来ていない。
いま中国としては状況を沈静化し、落ち着いて人工島の設備を整えることが、理に適った戦略なのだ。人工島は主に悪天候の際の船舶・航空機の避難所および補給所として利用する、と中国は主張するが、これはあながち嘘でもない。
重量級誘導ミサイルや長距離地対空ミサイルなど強力な兵器システムを面積の小さな人工島に配備しても軍事的には意味が薄い。係争海域に位置する島に外国の上陸部隊を撃退するための警備が必要なことは言うまでもないが、防衛力の配備はあくまで限定的だろう。島の周辺をコントロールするものではなく、島そのものを守る防衛力に限定されるだろう。海南島から1000km離れたこの海域で、船舶や航空機が一時羽を休め、補給を受けられるようにすることが主眼だろう。
おそらく常備部隊が展開することはなく、様々な艦隊から航空機部隊が交替で駐屯することになろう。同じように、島には056級コルベットが常駐するだろう。また戦闘機J-11やJ-16が定期的に交替しつつ配備されるだろう。中国の非原子力潜水艦の島周辺における活動も活発化されるだろう。
中国はASEANとの関係を悪くしたり、強硬な対抗措置を引き出したりすることを避けつつ、島へのインフラ建設を進めることが出来そうだ。インフラ建設が完了し、中国軍が展開しはじめたとしても、周辺諸国はその新たな現実を受け入れた上で政策を考えなければなるまい。
対抗して米国が南シナ海における軍事プレゼンスを増大させ、たとえば同盟諸国と共同でパトロールを行ったとしても、それはウクライナ危機後に米国が東欧で演習を行ったことと同様、力と決意の無意味な誇示になるだろう。このような力の誇示によって世論は多少動くだろうが、既に出来上がってしまった戦略環境を変化することはできない。ASEAN諸国の一部は既に米中間でバランスをとる政策から、むしろ中国と戦略的に妥協する政策へと乗り換えている。他の国も遅かれ早かれその道に就かざるを得ないだろう。反対に、米国の行動は、互いにしばしば矛盾し、あまり脈絡をもたない、扇情的示威行動への固執ということになるだろう。