今回の調査について、いくつかの重要なポイントを指摘できる。地域諸国は依然として、東アジアには一国が単独では処理できないような安全保障上の脅威が存在している、と考えている。その一方で、それら脅威が急速に、また大幅に強まる恐れはないと見ている。この数十年間に形成された米軍のプレゼンスで、彼らは自らの安全を守るのに十分だと考えているのである。
ここには米日を含む諸国の軍事・外交のプロたちと世論との戦略観の相違が見て取れる。米日の外交・安保専門家は中国軍の軍事力増大および南および東シナ海における中国の立場の強化を重視している。
この10-15年で中国軍の力に対する彼らの評価は決定的に変わった。北朝鮮の核ミサイルポテンシャルが明らかに増大したというもうひとつのファクターと並んで、中国軍の増強は、アジアの軍事構造を大きく変える、一連の重要決定のきっかけとなった。しかしこうした軍事的地殻変動も、地域諸国の国民一般には、あまり大きな変化をもたらすことはなかった。
一般の人々は、1990年代の世界と2000年代の世界に、そう大きな情勢変化を見ていない。中国脅威論は政界には広く浸透したが、社会にまでは伝わらなかった。米日がせっかくより強硬な対中政策をとる必要性について協議を行なっても、あまり成果が出なかったゆえんだ。
中国への政治的圧力も強まってはいるが、しかし緩慢だ。南シナ海の最近の動向を見ると、米国は中国のあらゆる行動に対して、大幅な遅れを伴って反応する。たいてい、米国の報復措置は、効果ゼロである。米国と日本の政治家および軍部は中国を最重要の脅威と目して久しい。一方で、経済的・文化的関係は、かつてないほど発展している。
このような驚くべき状況が、この30年、中国が、衝突を回避し、力を蓄えるという政策を続けてきた結果、作られたのだ。中国はこれまで相手方に対し、ロシアに対して行なわれているような孤立化・信用失墜政策を取らせる隙を与えなかった。問題は、この政策が一定の限界を持っているということにある。まず、この政策は中国のグローバルな経済的利害を効果的に守るのには有効でない。たとえば、アフリカおよび中東諸国への投資といった利害を。しかしこうした利害は絶えず増大しており、そこから利益を得ることは中国にとっては死活的に重要なのだ。第二に、この政策はあらゆる意味で、中国社会の期待と軌を一にしている。すなわち、新しい軍事力、新しい経済力によって、国際社会における新たな地位を占めたい、という願いと。直接対決を永遠に避け続けることは不可能だ。中国は選択を迫られていいる。自分がタイミングを選んで名乗りを上げるか、それとも相手方、敵方に、そのタイミングを選ばせるか。