この映画は、知らない間に故郷の東京で犯罪集団の流血の紛争の犯人にされ、正教会の主教として働くためロシアの僻地に送られた、ある日本人司祭に関するもので、ロシアと日本のメンタリティのぶつかり合いを描いたあらすじの面白さばかりでなく、ロシアの観客には特別興味深いものとなっている。主役を演じるハリウッド俳優ケリー=ヒロユキ・タガワ氏が正教の洗礼を受け、パンテレイモンという洗礼名を得たというニュースが、皆を驚かせたのは、つい最近のことだ。
「私の父は、軍隊でロシア語を勉強しました。おじは歌い手で、一年に一回、公演のためモスクワに行っていました。母は、ロシア文学や音楽に興味を持っていました。ですから、ロシア文化は私の血の中に流れているのです。」
このように述べたタガワ氏は「今回の役は、あなたにとって近しいものであったのではないか?」との質問に、次のように答えた-
「はい、多くの点で私の体験と重なっています。私は、映画を撮ることになったわけですが、そのことを悔やみました。いみじくも『イエレイさん』が言うように『私は死ぬことを恐れませんが、神の愛に値しないことを恐れる』からです。まさにそれゆえに、私はロシア正教を受け入れました。私の感じる恐れや罪を懺悔し、清らかな存在となるために正教を受け入れたのです。
米国で日本人が生きるのは、容易ではありません。それゆえ、私は、うまく悪役を演じてきたのでしょう。敵対する周囲を常に感じていたからです。しかしこの事は、私を懺悔へと近づけませんでした。私は自分の役と共に、あたかも完全な人生を一巡したようでした。フィルムは私にとって、ターニングポイントとなりました。それまで私は俳優として、普通、悪役を演じてきましたが、長い間、何か別のものを演ずる時を待っていたのです。」
タガワ氏はインタビューで、ロシアで仕事をした印象について、冗談を交えながら、次のように述べているー
「ハリウッドでもロシアでも撮影現場は、常に混沌としています。しかしロシア映画の混沌ぶりは、マスタークラスと言ってもよいでしょう。ロシア人について言えば、ロシア人と日本人の間には、多くの共通点があると思います。すべては。魂から始まるのです。米国では、精神性や深い内的世界と出会う事はめったにありません。私は米国を批判するつもりはありませんが、実際そうなのです。米国が、まだ大変若い国だという点に問題があるのだと思います。一方ロシアでは、魂の深さというものと触れることができました。ロシア人と日本人は、互いから何かを学ぶことができるでしょうし、分け合うことのできる何かを持っています。私は、ロシアの国籍を得たいと思っています。
中国哲学によれば、人間の人生の一巡りは60年ということです。そうであるなら私は65歳ですから、今まだ5歳の子供に過ぎません。ロシアに滞在し洗礼を受けた体験は、私を子供時代へと導きました。私は5歳の時に米国に移住しましたが、これは私の選択ではありません。両親が決めたものです。しかし今度の選択、自分が属する教会と国を決めたのは私自身です。」
映画「イエレイさん、侍の告白」は、11月26日に封切られる。