露米はともに、依然、司令ポストや数百発もの戦略核弾頭を使用可能な状態においている。これは惰性によるものである。冷戦期間の対立状況では、両国とも、緊急発射戦術をとっていた。それは、敵ミサイルが自国の戦略ポテンシャルの大部分を撃滅するまで、対抗核攻撃を行う可能性を保持する、というものだった。
攻撃ミサイルの飛行時間は11分から30分である(敵近海を哨戒中の潜水艦からなら11分、自国周辺を飛行中の航空機からミサイルを撃つなら30分)。緊急発射の決定は莫大な心理的負荷ならびに時間的制約の中で取られることになる、とブラー氏。
「これは事前に用意されたシナリオに基づく、メカニカルなゲームであると呼びたい。一部データによれば、ミサイル攻撃早期警報システムのデータを3分間で評価した後、どのような報復核攻撃があり得るか、それぞれがどのような被害をもたらすかについて、米国大統領は30秒間の報告を受ける。うちのどれを選ぶかを決める時間は、数分しかない。おそらく3分から6分、どんなによくても12分だ」。
冷戦時代、既にミサイル攻撃警報システムの誤作動があった。1983年、ソビエトの将軍、スタニスラフ・ペトロフ氏が、システムの誤作動による核戦争を、未然に防止した。コンピューターが、米国基地からミサイルが発射された、と判断したのだ。米国側にも、ジミー・カーター大統領補佐官ズビグネフ・ブジェジンスキイ氏が、もはや大統領にソ連側からの全面攻撃開始を報告するという段階で、警報が誤報であったことが分かるケースがあった、とブラー氏。
「もしロシアと米国の関係が再び冷戦期の核対立のレベルにまで戻るなら、誤発射のリスクは当時に輪をかけて大きい」という。しかも、サイバー脅威の登場で、リスクはなお高まっている。「今のところ、この脅威への理解が弱い。そのため、やはり緊急発射モデルが最高度に信頼できる方法となる。コンピューターに警報が入るやいなや、核弾頭が発射される。その警報の出所は不明ということもあり得る」とブラー氏。