テロリストら自身は「IS(イスラム国)」を自称しているが、これはカリフ(アラブ語で「継承者」の意。この場合は預言者モハメッドの継承者を指す)が治めるイスラム帝国を指しての表現。社会的に認識されている最後のイスラム帝国はオスマン帝国で1923年に滅亡している。
ロシアではこの組織の表記にИГИЛ(ISIL,イラクとレバントのイスラム国)が使われている。レバントというのは地理的にはシリア、リビア、パレスチナ、イスラエル、ヨルダンという地中海東部を指す。アラブ人はこの領域を「偉大なシリア」という意味の「アッシャム」と呼んでいる。
だが影響力のあるマスコミおよび一連の国家は、活動が禁止された組織をこのような名称で呼ぶことを退けた。その理由はテロリストらに事実に反してあたかもイスラムを代表させる権利を与えかねないからだ。
今やこれに代わってよく聞かれるようになった名称が「ダーイシュ」。「ダーイシュ」はパリ連続テロ事件の後、オランド仏大統領がオバマ米大統領との会談の席で公然と使った。ダーイシュはDaeshとも Daiishまたは Da'eshとも表記される。ダーイシュはアラブ語の「ダウラ・アルイスラーミヤー・フィー・アルイラーク・ワッシャーム」の略。これは一見「イラクとレバントのイスラム国」とそのもののようだが、ダーイシュという発音はテロリストには受け入れられないものだ。テロリストらは「ダーイシュ」と発音する者の舌を切り落とすとまで脅している。それはこの省略語の音がアラブ語で「足を踏み鳴らして歩く」という意味の「ダエス」や、「破壊を蒔く」という意味の「ダヘス」と似ているからだ。
かくして、いまやテロリストらを苛立たせる簡易表現がアラブ人のみならず、世界中のマスコミでより頻繁に用いられるようになってきている。