モスクワ国際関係大学、国際調査研究所の上級研究員、アンドレイ・イヴァノフ氏は、この件に関して次のような考察を表している。
「テロ組織が軍事、政治上の目的を遂行するために様々な国の政府を利用していることは公然の事実だ。たとえば『アルカイダ』はアフガニスタンでソ連軍に抵抗していたが、これは米国CIAの支援と庇護を受けていた。それにこのダーイシュ(IS,イスラム国)だってトルコ、カタール、サウジアラビアが合法的なシリア大統領であるアサド氏を打倒するのに利用している。
どんなテロリストもただで戦うことはない。このためテロと効果的に戦う最良の手段はテロリストへの資金源を断つことだ。まさにこれをシリアで戦うロシア人パイロットらは行なっているのであり、石油の採掘、貯蔵場所やシリアでダーイシュが採掘した石油をトルコへと運ぶ(そしてこれはトルコから世界の様々な消費者へと運ばれるのだが)輸送車に直接的に空爆を仕掛けているのだ。
だがシリア人から盗まれる石油の流れを迅速に止めるためにはシリアとトルコの国境を閉じる必要がある。この国境は実は、世界の様々な国でダーイシュによってリクルートされた武装戦闘員や武器の通り道となっており、これらはまさにトルコを通じてダーイシュのもとへと届けられている。
国境を封鎖するよう米国は頼んだが、トルコはそうしたオペレーションを行なう資金源がないことを理由にこれを拒否。だがこの拒絶には他のわけもある。
第1にダーイシュの採掘した石油取引に関与するトルコ人役人、政治家、軍人らは収入源を失うことを欲していないこと。第2に国境が封鎖された場合、シリアのダーイシュはただでさえ武装戦闘員、武器の補給の道を断たれ、壊滅への速度を速めてしまう。そうなればエルドアン氏の計画にとっては打撃だ。なぜならエルドアン氏はシリアを掌握し、その後これを、その復活をひそかに夢見るオスマン帝国の一部としようとしているからだ。
この例ではテロとの戦いの関心が政府の関心、この場合トルコ政府の関心といかに対立するものであるかがはっきりと見て取れる。
ところでここ数日、ダーイシュの石油インフラへの爆撃に英仏が加わった。英仏の動機は異なる。オランド仏大統領はテロリストらに先日のパリへの攻撃の見せしめを行う断固とした姿勢を示そうとしている。キャメロン英首相にはダーイシュに対する勝利者のひとりとなり、シリアの将来を決める権利を得たいという目論見がある。キャメロン氏はオバマ氏と同様、シリアの将来をアサド氏抜きで描いており、米国と同じように現シリア政権に反対して戦う他の武装集団をテロリストとして認識することも、これに攻撃を行うことも拒否している。それだけではない。反アサド派にアサド体制転覆を、またはシリア領土の一部を強奪するのを幇助するため、米英はどうやら今、NATOの陸上部隊をシリア領内に送り込むことをたくらんでいるらしい。言い方を変えると、テロリストらには西側が嫌うアサド氏をどかすことが出来なかったため、西側のテロリスト庇護者らは今度は自ら乗り出して国家テロを起こそうとしていることになる。
テロを相手にした戦争に加わるにあたり、日本が絶対に理解しておかねばならないのは、このゲームの非常におかしなルールだ。テロリストと認証されるのは欧米や他の「文明国」に攻撃を仕掛けた人間だけであり、シリア、ロシア、中国にテロ攻撃を行う者らは自由や民主主義を勝ち取ろうと立ち上がった「文明人」と見なされる。問題なのはこうした「戦士(文明人)」らはよくコントロール下から外れてしまい、欧米の一般市民を殺害しはじめるということだ。
もし日本がテロリストを「悪者」と「善玉」に仕分けるとすれば、日本も裏切り者らの標的になりかねない。こうした裏切り者は西側から資金と援助を喜んで受け取りながらも、やはり西側の文明、これに日本も相当するのだが、これを敵ととらえ、勝利を手にするまで戦うべしと考えている。」