問題となっているのは2つの国家としての米中間のパワーバランスの変化ではない。中国に対する米国の全体的な軍事的優位性はこの先もまだ長期にわたって絶対的に維持されるからだ。ところが中国は、米国がアジア太平洋地域における自国パワーのバランスを図りなおすよりも格段に早く、軍事的な可能性を増強させている。
中国が原則的には、グローバル規模で米国と経済、政治上の競争を完全に行なう能力があるにもかかわらず、この地域は比較的安定した様相を見せている。その理由は、米国は世界の他の地域における外交政治で混乱し、自らそれを袋小路においやってしまったので、今や単に中国と必要なパワーバランスを維持できないだけでなく、この先も地域危機において効果的な調整を行なう能力を失いかねない。これによって中国は東アジアにおいて軍事的にも経済的にも徐々に地固めを行なう可能性が開けている。おそらく将来、この地域の諸国は新たな力の配分を受け入れざるを得なくなるだろう。
確かに朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)はミサイルや核実験によってアジア太平洋地域で次第にポジションを強化しようとする中国の政策を困難にさせている。北朝鮮のミサイルや核の直接的な脅威は米国の反応を呼んでおり、北東アジアに対ミサイル防衛を展開し、日本、韓国との連合を強化しようと具体的な措置がとられている。だが同時に北朝鮮はこの地域での米国の政策の信頼をさらに強力に失墜させ、弱体化させるだろう。現時点までに米国は北朝鮮に影響を及ぼす効果的なツールをすでに使い果たしてしまっている。こんにち中国は北朝鮮に対し、石炭などの北朝鮮製品の購入を停止し、生活必需品の供給をやめれば、非軍事的な圧力をかけることが出来る。だが中国はこうしたアプローチを行うことはできない。なぜなら北朝鮮が経済的に困窮すれば、中国自身の安全保障が壊れてしまうからだ。現在入手できる情報を集めると、北朝鮮は次第に経済状況を強化しており、軍事上の建設でもかなりの成功を収めつつある。米国の対北朝鮮政策も袋小路に入ってしまった。米の連合国らにとってはこの政策は気づいたら解決の一端ではなく、問題の一端であった、として受け止められるようになる可能性もある。