モスクワ国際関係大学のアンドレイ・イワノフ上級研究員の見解を、以下皆さんに御紹介したい。
会談の目的は、全体として気高いものだった。すべての人々にとって、もっと安全な世界へと続く道を皆で話し合い、核兵器のない世界のための諸条件を創り上げるという立派なものだった。会談をまとめた宣言の中で、G7の外交担当責任者達は「我々は、そうした方向に前進する」と言明し、そうした動きを困難にしている問題があることを指摘した。具体的には、シリアやウクライナなどいくつかの地域の安全状況の悪化、そして北朝鮮の度重なる挑発行為である。
欧米は、シリアでの出来事を「血塗られた独裁者」であるアサド大統領に対するシリア国民の戦いとみなしているが、ロシアは、地域の一連の国々によるアサド大統領打倒の企てとみている。なぜなら、ペルシャ湾岸のカタールからシリア領内を通じて欧州へと通ずるガスパイプライン建設を、アサド大統領が認めないからだ。そのため暴徒集団やテロリストを使って、アサド政権転覆を図っていると、ロシアは考えている。
さて、もう2年以上流血の無秩序状態が続くウクライナだが、欧米は、ウクライナ人が、ロシアの影響圏に残るのを望まず、自由をめざし汚職と闘うため「ヨーロッパへ入る選択」をしたゆえに起きたものと説明している。一方ロシアは、そうした親西欧的傾向は実際あったが、それは一部のウクライナ人の間だけで、そうした一部の人達が暴走し、国を分裂させ、内戦に導いたと見ている。またロシアは、この2年間でウクライナでは逆に汚職が増え、自由が制限された事、そしてウクライナ経済に至っては、ほぼ壊滅的な状態だ、という事をよく知っている。しかし欧米は、それを知りながら、そうした事実を認めようとしない。
さてここで、一つの問いが生じてくる。ロシアのどこが悪かったのか、なぜロシアに対し制裁が導入されたのか?という問いだ。また、今回広島でまとめられた宣言の中では「対ロシア制裁を今後も続けるかどうかは、ロシアがミンスク合意を完全に履行するかどうか、ウクライナの主権を尊重するかどうかに直接左右される」と述べられている。これは、明らかに狡猾なやり方だ。まず第一に、ロシアはミンスク合意を実現する事が出来ない。なぜなら、それを守っていないのはウクライナだからだ。第二に、ロシアはウクライナの主権を尊重しており、その侵害をたくらんでなどいない。クリミアについて言えば、ロシアの一部であって、ウクライナの主権とはもう何の関係もない。これはクリミアの住民自身が、真に民主主義的手段によって、自分達で決めた事だ。
最後に、北朝鮮について言えば、すべてはかなり単純だ。世界を核実験によって脅すような事は、もちろん、よい事ではない。それゆえロシアは、つい最近の、北朝鮮当局を非難し制裁導入を求める国連決議を支持した。しかし、米国のような力のある大国が、介入するとか、体制を打倒するとか言って小さな国を脅すのは、よくない事だ。小さな国の中では、恐怖のあまり、核兵器を作り始めている国もある。そうした行動に駆り立てた責任は、一体誰にあるのか? それは明らかだろう。
広島での今回の会議では、こうしたあれやこれやの問題に答えが出されなかった。それゆえ核兵器のない世界という夢の実現が、近づく事はなかった。