祈祷に先駆けた土曜日の昼間には、モスクワの町中で、クリーチを手にした人たちの姿が見られる。クリーチとは、ボリュームのある円筒型のパンのことで、正教会では昔から儀式の際に重んじられてきた。最近では店でも売っているが、家で手づくりする人も多い。中には干しぶどうが入っていることが多く、表面は砂糖で覆われ、カラフルなデコレーションが施されている。一番よく見られる装飾は「ХВ」という文字。ロシア語で「キリスト」と「復活」の頭文字をとったものだ。これを教会へ持っていき、司祭に成聖してもらう(祝福を授けてもらう)のだ。成聖してもらったクリーチは、復活大祭の朝に食べるのが慣わしだ。
スプートニク日本の取材班は、モスクワの中心部にある「偉大なるピエン教会(1702年建造)の儀式に参加した。クリーチとイースターエッグが教会の隣に並べられた机に所狭しと置かれ、司祭が聖なる水をかけて成聖していく。教会の広い敷地には成聖を待つ人の大行列ができていた。しかし、ピエン教会で働くリュドミラさんによれば、今年は連休に重なったせいか、人は少ないほうだということだ。
この日教会を訪れたガリーナさんは、毎年クリーチを焼いている。今年は6時間かけて5個のクリーチを作った。クリーチの伝統的な作り方はあるものの厳しい決まりはないため、毎回レシピを工夫しているという。
皆に祝福を授けたピエン教会のアレクサンドル・トロポフ長司祭は「パスハは我々にとって、信仰、教義の土台であると言えます。花が咲き太陽が輝くように、私たちも主の復活を喜び、祝い、輝こうではありませんか。ニコライ大主教が日本に長く住み、日本で正教を広めたことをよく知っています。東京には大変すばらしい聖堂もありますね。日本の正教徒の皆様、日本の国民の皆様の繁栄と、パスハの喜びをお祈りいたします。」と話してくれた。