そもそも、日露首脳会談はそう頻繁に行われるものではない。たとえば、2012年12月26日の第2次安倍内閣発足以降に行われた日露首脳会談は、電話会談を除くと、今回の首脳会談を含めて10回しかない。この10回の日露首脳会談の行われた日付、場所、訪問の目的、会談時間を表にまとめてみた。
この10回の会談のうち、日露首脳会談を行うことを目的に相手国を訪問して会談が行われたのは、2013年4月29日、2014年2月8日、そして今回の3回である。このうち、2014年2月8日の訪露は、IOC会長の招待によるソチ冬季五輪開会式への出席を兼ねており、実際には首脳会談が目的の訪露だったと考えられるが、表向きは冬季五輪開会式への出席のついでに首脳会談が行われたかたちになっている。したがって、もっぱら日露首脳会談を行うことを目的に相手国を訪問したのは、厳密に言えば、今回が2回目ということになる。ところで、いま、「相手国の訪問」と述べたが、この間、プーチン大統領の訪日は行われていないので、実際には、すべて安倍首相の訪露である。
日露首脳会談を行うことを目的として相手国を訪問し、会談を行うことがいかに重要であるかは、その会談時間を見れば一目瞭然である。表に見るように、何らかの多国間首脳会議等に出席するために第三国を訪問した際に行われた日露首脳会談は7回あるが、その会談時間を見ると、5回は40分であり、例外的に1時間30分だったことが1回、実際には会談とは言えないような立ち話にすぎなかった10分の会談が1回である。通訳を介しての会談では、10分では挨拶程度、40分でも突っ込んだ話し合いは難しい。やはり、日露首脳会談を行うことを目的として相手国を訪問し、首脳会談に専念できてこそ、突っ込んだ話し合いをするための十分な時間が確保できるのである。
会談の回数を見てみると、2013年は4回、2014年は3回、2015年は2回と、年を追うごとに回数が減少している。しかも、日露首脳会談を目的とした相手国の訪問も2014年2月8日のソチ訪問を最後に、過去2年間行われなかった。これには、2014年2月以降のウクライナ政変に起因する欧米諸国とロシアとの関係の悪化が影響している。その意味でも、今回の日露首脳会談の意味は大きい。
会談の成果について言えば、全体として高く評価できる。その理由は三つある。
一つは、今回の首脳会談で、日露関係を、ウクライナ政変前の2013年の水準に戻すことが、事実上、合意されたことである。具体的に言えば、①「平和条約締結交渉を6月中に東京で実施することで一致した」(日本外務省公式発表)こと、②「日露安全保障協議及びテロ対策協議を近く実施すること、防衛当局間の交流及び海上保安庁・国境警備局間の交流を継続することで一致した」ことである。平和条約締結交渉は、継続を前提としていると推測されるので、これは、平和条約締結交渉事務レベル協議の復活と考えてよい。後者は、外務省の公式発表には明示されていないが、2013年10月から11月にかけて第1回がおこなわれ、その後中断している日露外務・防衛閣僚会議「2プラス2」の復活を意味していると考えられる。少なくともロシアの外交筋ではそう述べている。
二つ目の理由は、「これまでの(平和条約締結)交渉の停滞を打破し、突破口を開くため、双方に受入れ可能な解決策の作成に向け、今までの発想にとらわれない『新しいアプローチ』で、交渉を精力的に進めていくとの認識を両首脳で共有した」ことである。その際、外務省の公式発表では、「日露二国間の視点だけでなく、グローバルな視点も考慮に入れた上で、未来志向の考えに立って交渉を行うこと」が言及されている。この認識がロシア側に共有されたのかどうかは定かではないが、少なくとも、日本側がそうした認識を持っていることは重要である。日本政府が、いわゆる「北方領土問題」を解決するためにも、平和条約締結交渉に際して、「グローバルな視点」と「未来志向の考え」に基づいた「新しいアプローチ」を提案することを、私は大いに期待したい。
(上智大学教授・上野俊彦)