これについてロシア人軍事専門家のヴァシーリー・カーシン氏は次のような考察をあらわしている。
「尖閣諸島という係争水域に同時に中国のフリゲート艦とロシア太平洋艦隊の3隻の船隊が航行した事実は日本国内に政治的な反応を呼び、この2国はそろって日本に反対することを示したという論議を呼んでしまった。ロシアと中国は今に至るまで、日本との係争水域でのそれぞれのポジションを通報しあってきてはいない。もう数十年も変わらないこうした基本的アプローチはどう変化しても、 地域の政治により大きな影響を与えるはずだ。
なぜロシアの船団がこの海域にいたのか? 現時点までに出された発表を見ると、船団は国際演習に参加し、東南アジア諸国に立ち寄る遠洋航海から太平洋艦隊基地に戻る途中だった。ロシアは外国のように補給や修理のための発達した軍事基地網がないことから、これだけの遠洋航海ともなると貨物補給と救難用にタグボートを引き連れている。
この船団が軍事ミッションで太平洋へと漕ぎ出したのは3月28日にさかのぼる。4月にはインドネシアを訪れ、国際演習「コモド2016」に参加し、5月にもさらにアジア太平洋地域の30カ国が参加する多方面的な対テロ演習『ADMMプラス-2016』に参加したほか、シンガポール、ブルネイで表敬訪問を行っている。
この船団はミッションを終えて帰路についているところなのだが、全行程で船は軍事外交ミッション、演習課題を遂行しており、その中で唯一の軍艦は老朽化している。ロシアの船団は係争諸島の水域を一切侵犯していないにもかかわらず、もう少しでこの地域の軍事外交情勢に影響を及ぼすところだった。
露日関係は最近改善しており、最高レベルでの会談も成立して経済分野の巨大なプロジェクトも討議され、平和条約締結問題でも解決への進展に希望の光がさしてきている。この地域に同時に露中の船団が現れたのはおそらく偶然の一致だろう。ただしこのことは、露中日の軍部間でもより効果的な通報メカニズムを作らねばならないのではないかということを再度、思い起こさせた一件だった。」