作曲家イリヤの役を演じたのは、有名なロシアの劇場俳優であり映画俳優でもある、ユーリー・ソローミン氏だ。ソローミン氏は現在、ロシアの有名な劇場「マールイ劇場」の芸術総監督をつとめている。文字通りスプートニクのインタビューの数日前、ソローミン氏はサンクトペテルブルグからモスクワに戻ってきた。マールイ劇場はサンクトペテルブルグで公演していたのだ。ピアニスト・矢代悠子役を演じた日本の有名な女優、栗原小巻さんと共演したことは、ソローミン氏にとって特に良い思い出だ。
ソローミン氏「映画製作のグループはすばらしいものでした。栗原小巻さんとは一緒に働いていて全然苦になりませんでした。彼女は女優としての地位を確立していて、有名人であるにもかかわらず、情愛にあふれた謙虚な人でした。映画を撮影し終えた後も、私たちの関係が途絶えることはありませんでした。あるとき私は、マールイ劇場の客演公演の打ち合わせをするために日本へ行きました。栗原さんは、当時自分で運転をすることは稀だったのですが、個人的に私と会うため、自ら運転席に座ってくれたのです。
『白夜の調べ』という作品は、偉大な日本人映画監督、黒澤明氏の『デルス・ウザーラ』に続き、私にとって、露日合作映画の第二号となりました。そんなわけで既にそのとき、日本人は私のことを知っていました。栗原さんも同じです。既にその時点で、彼女が主演した映画『モスクワわが愛』が公開されていました。栗原さんは現在も、ときどきロシアに来ています。5年ほど前、『白夜の調べ』のソロビヨフ監督の招きで、栗原さんはロシアの映画フェスティバルのひとつに参加しました。彼女と会うのはいつも嬉しいものですよ。
そういえば、特に強調したいのですが、『白夜の調べ』には、作曲家イサーク・シュワルツによる大変すばらしい、心を揺さぶる音楽が使われています。シュワルツの音楽は、この映画に、何か特別な雰囲気を与えてくれています。残念ながらこの映画は以前ほど頻繁に上映されることはなくなりましたが、音楽は現在でも、昔と変わらず耳にします。この音楽を聴くと、思い出が私の頭をすぐによぎるのです。
栗原小巻さんはある時、ソローミン氏に自分の夢を打ち明けた。ソローミン氏は自分の記憶の中に、それを大事にしまっている。その夢とは、アントン・チェーホフの戯曲「桜の園」の主人公、ラネフスカヤを演じるという夢だ。そしてソローミン氏は栗原さんにビデオメッセージを送ってくれた。
ソローミン氏「小巻!君にこのような深い深い礼を捧げ、人生の喜びを祈ることができて、私はとても嬉しいよ。私は以前のようにマールイ劇場で働いています。映画に出ることはかなり少なくなったよ。劇場の仕事がとても忙しいのでね。スプートニクとのインタビューで私たちは、君にまつわるエピソードについて話したんだ。あるとき、チェーホフの『桜の園』のラネフスカヤ役を演じることを夢見ている、と打ち明けてくれたね。そして、マールイ劇場が日本で公演をしたとき、私は君に、『ロシアに来てラネフスカヤ役を演じないか?』と提案したんだ。でもそれは何故だか、実現しなかった。このときの提案は、今も続いているんだよ。ラネフスカヤ役だけじゃなくて、他の役でもね。君の成功と幸せを祈っているよ!」