金子氏は、クーデターが起きた理由について、「与党・公正発展党(AKP)に対する軍人の不満が爆発したこと」だと指摘している。
金子氏「2002年に、現在のエルドアン大統領率いる公正発展党が政権の座についてから、軍は徐々に弱体化させられてきました。トルコの国是である世俗主義と、公正発展党の支持者に代表されるイスラム主義支持層との対立が年々激しさを増し、トルコ国内の溝は埋められないほど深くなってきています。世俗派の象徴である軍は、イスラム化していく現在の政権や、エルドアン大統領のあまりにも強権的な手法に対して、危機感を以前から抱いていました。それが一気に爆発したのが今回のクーデターです。」
金子氏「トルコ軍は今まで、国内に混乱が生じた場合や世俗主義が脅かされそうになった場合に、クーデターによって一時的に政権を担い、また民政に移管させるという機能を果たしてきました。今回のように軍が大規模に展開したのは1960年と1980年の二回です。二回とも陸海空軍すべてが一斉に行動を起こしクーデターを成功させました。しかし最後の軍事クーデターから40年近くが経ち、トルコ情勢も大きく変わりました。
今回の映像を分析すると、エルドアン大統領が国民に向けて発した『外へ出てクーデターに抵抗しよう』という呼びかけに応じた人の中には、『エルドアン大統領は嫌いだが、武力行使で政権を交代させるのは絶対反対だ』という人も多数いたように見受けられます。これまでトルコ国民にとって軍は絶対的な存在であり尊敬の対象でしたが、この騒動によって、トルコ軍は自身の手で自らの権威を失墜させてしまいました。」
エルドアン大統領が、クーデターの黒幕だとみなしているのが、米国に亡命中のイスラム指導者、フェトフッラー・ギュレン師だ。トルコのユルドゥルム首相は19日、ギュレン師の身柄引き渡しを求める公式文書を米国に送付したことを明かした。また、これのみならず、トルコと米国の間にはいくつかの懸念材料がある。
金子氏「米国は今のところ、ギュレン師がクーデターを主導したという明確な証拠がない限り、引き渡しには応じられないというスタンスを貫いています。この引き渡し問題が長期化すると、IS・イスラム国対策をめぐる情勢に大きい影響が出かねません。現在の米国主導のIS空爆作戦はトルコの軍事空港を拠点にしていることもあり、トルコの協力が不可欠です。またトルコが長年抱えているクルド問題について米国とトルコは立場を異にしています。トルコは、反政府勢力のクルディスタン労働者党(PKK)と激しい戦闘を繰り返しています。一方、米国は対IS作戦において、PKKの兄弟組織であるシリアのクルド民兵組織(YPG)を支援しています。トルコとしては絶対に、YPGを認めるわけにいきません。また、米国大統領選挙の行方も注視するべきです。もしトランプ氏が勝利することになれば、トルコに対してより強固な姿勢をとりかねず、関係が悪化する可能性があります。」
それに引きかえ、トルコとロシアとの関係は強まっていくとみられる。トルコがロシアとの関係を重視するのは、トルコの不安定さの表れだ。昨年11月のトルコ軍によるロシア機「スホイ24」の撃墜事件以来、二国の関係は冷え切っていたが、エルドアン大統領の謝罪により回復の兆しを見せている。
一方、日本の対トルコ政策にスタンスのブレはみられない。日本は、トルコ当局によるクーデター捜査を見守る姿勢を示し、エルドアン政権を批判する欧米とは一線を画している。
金子氏「トルコの対日外交にも、日本の対トルコ政策にも、現時点では特段の変更はないと思います。トルコは昔からの親日国ですし、安倍首相とエルドアン大統領の関係も非常に良好です。日本の大手企業は多数トルコに進出していますし、クーデターの影響も限定的でした。日本とトルコは良好な関係と経済的な結びつきを維持すると思いますが、クーデター騒動で、トルコは危ない国だという恐怖感を日本人に与え、トルコのイメージが変わってしまいました。」
金子真夕氏のフル・インタビューは、スプートニク音声番組「トルコで今、何が起きているのか?日本人専門家がわかりやすく解説」をお聴きください。