日本人専門家が見るロシア経済のこれから:エネルギーより農業分野に注目

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16日、ロシアの経済・産業政策と主要産業の現状を知るロシア経済セミナー(在ロシア日本大使館、ROTOBO、ジャパンクラブ共催)が開かれ、京都大学経済研究所の溝端佐登史教授と、ROTOBO経済研究所の坂口泉研究員が講演を行った。会場にはロシアに進出している日本企業の代表者たちが集まり、熱心に聴き入っていた。

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溝端教授によれば、ロシア中央銀行の経済政策は短期的には評価を得ており、プーチン大統領もインフレ抑制策を支持している。ロシア一般市民の懐に入るお金が極端に減ったわけではないものの、消費者心理の冷え込みから消費は貯蓄に回った。特に家計消費の落ち込みが顕著で、これが更に経済を落ち込ませる原因になっている。また、溝端教授は、長期的なビジョンでの構造改革を行うのは難しいとの見解を示した。現在のロシアの失業率はヨーロッパ諸国と比べて格段に低く、景気が悪いといっても雇用の部分は守られている。公務員の雇用にメスを入れたり、増税や歳出カットといった痛みを伴う政策を断行しなければならない。しかしそれを実行すれば、政権は支持を失ってしまう可能性がある。溝端教授は、「ロシアの経済政策を読むのは難しい。人や官庁によって考え方に開きがある。しかし関係者の間に、現在の資源輸出モデルをベースにした成長戦略は尽きており、新しい戦略に移らなければいけないという共通認識があることは興味深い」と述べた。

坂口氏は、ロシアは資源大国だというイメージがあるが、イメージのみにとらわれるのではなく、投資の前に資源基盤について冷静に分析するよう促した。坂口氏は、石油に関しては年々資源の質が低下しており、埋蔵量自体は減っていなくても、経済的に回収困難な石油が増えているので、いつロシアの石油生産量が減少し始めても不思議ではなく、ロシア経済は油価という不安定な要因に左右される度合いが今後も高まると見ている。ロスネフチは新鉱床の開発にインドや中国の企業を積極的に誘致しようとしており、日本にも声がかかると思われるが、坂口氏によればそれらは「以前に比べるとリスクの高いプロジェクト」である。ガス分野も磐石ではない。新しいLNGプラント建設プロジェクトで最も現実的なのは、ロシアが国家の威信をかけているヤマル半島のヤマルLNGプロジェクトだが、立地条件を鑑みると、積み替えコストなど操業してから問題が顕在化する可能性もある。

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農業分野では明るい見通しもある。ロシアは10年程前から穀物の輸出国になった。小麦が穀物生産のうち6割を占め、トウモロコシの生産も増加傾向にある。坂口氏は「農業分野で注目しているのはソバ。アルタイが生産中心地であるロシアのソバの生産量は安定していないが、日本への輸出が増加している」という。牛肉はまだ多くを輸入に頼っているが、鶏肉、豚肉は内需を満たせる状態だ。しかしこれらは経済制裁に対抗する輸入代替政策の効果ではない。十年単位で畜産業拡大に取り組んできた結果が、現在結実しているというだけの話であって、国内生産を促進する輸入代替策が即座に功を奏していると見るのは誤りである、と坂口氏は強調している。

ロシアのビジネスのネックとして、金利が高いことが挙げられる。見通しがあっても資金を確保できないプロジェクトもあるため、坂口氏は「収穫物を日本に持ってくることを前提に投資し、ソバ、大豆やトウモロコシの輸入を増やすというスキームは十分に考えられるのではないか」との見解を示した。

両氏の話を総合すれば、ハイリスクのエネルギー分野ではなく、農業分野での経済協力に明るい兆しが見て取れた。新潟市とハバロフスクの大豆プロジェクトのように、既に日露の自治体間で取り組みを拡大させ、試験栽培をしている例もある。

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