政治のシンボル:「血なまぐさい」桜刀を自衛隊のエンブレムに

© Flickr / Adam Wiggins
刀 - Sputnik 日本
サイン
交差する抜き身の日本刀と鞘、そして日の丸が描かれた陸上自衛隊の新たなエンブレムは、日本国内で世論の怒りが高まるまで西側メディアに注目されていなかった。

新エンブレムは5月に採用された。自衛隊のサイトでは、このデザインが選ばれた理由について次のように説明されている-

「古来より武人の象徴とされてきた日本刀を中央に配置して、その「刃」に強靭さ、「鞘」に平和を愛する心を表現しました。」

なおSNSのコメントを見る限り、「ネット住民」の大半を占める若者を含む大勢の日本人は、新エンブレムが気に入ったようだ。

​西側をはじめとした多くの国が、昔から武器を軍隊やその部隊のエンブレに描いている。中世ヨーロッパの紋章に剣が使用されるのは珍しくなかった。しかし日本ではかつて公式のシンボルに武器が描かれたことは一度もなかった。武家の家紋でさえ、武器が使われたことはほとんどなかった。

刀は、日本の伝統的な武器だ。刀は芸術品として、日本文化の一部として、また侍魂のシンボルとして世界中で賞賛されている。ロシアにも、そして欧米にもいるコレクターたちは、大金をはたいて刀を購入し、美術館や博物館に展示している。しかしこれは芸術品としてだ。最後に刀を実際の武器として使ったのは第二次世界大戦時の帝国軍。今日本の自衛隊員たちは刀を使っていない。そのためかつて日本の侵略に苦しんだ近隣諸国は一貫して、日本の自衛隊のエンブレムに刀が使われたのを、日本が軍国主義的な過去に戻った象徴とみなした。

状況はさらに曖昧さを増している。なぜなら自衛隊のサイトによると、このエンブレムは海外で活動する際などに使用するために特別に作成されたと述べられているからだ。なお日本国内では古いエンブレムも引き続き使われるという。

韓国の住民は、インターネット上で特に激しい怒りを表した。

「これらの刀がどれほど大勢の朝鮮人と中国人の喉を切り裂いたことか?そしてどれほど大勢の朝鮮人と東アジアの他の住民たちがこれらの銃弾で苦しんだことか?」

「これは、あたかも中東あるいはアフリカのどこかの独裁政権の軍事指導部であるかのような感じがする。」

中国人も負けず劣らず断固とした調子だ-

「彼らは再びラインを超え、再び国の運命を賭けてゲームをしている。」

日本国内でも、一部の人々がネガティブな反応を示しており、それらも同様に激しいものとなっている。サイトChange.orgには、陸上自衛隊に新エンブレムの撤回を求める請願が掲載された。現時点で約2万4000人が署名している。請願では、新エンブレムの撤回を求める理由の一つとして近隣諸国の怒りが挙げられている-

「『平和への活動』」と言いつつ、刀を崇拝しているデザインは、国民としても、大変恥ずかしく、海外に出すわけにはいきません。陸自に新エンブレム撤回の英断を求めます。」

日本のSNSではユーザーたちが新エンブレムに関するネガティブなコメントを続けており、撤回を求める署名を呼びかけている-

​「スプートニク」は、「とめよう戦争への道! 百万人署名運動」のメンバー、先崎有紀子氏にお話を伺った。先崎氏は「スプートニク」のインタビューで、日本の多くの市民と安倍政権の考え方は大きく異なっていると述べ、次のように語ってくださった-

「もちろん、こうしたものがつくられたことには反対です。改めて「日の丸」に日本刀をあしらったエンブレムを見て、何というひどいデザインのものがつくられたのかと憂慮しています。こんなものをアジアの人々が見たら「ぎょっ」とするでしょう。日本は再び戦争をするのかと思うでしょう。今回の自衛隊の血なまぐさいエンブレム問題は、今年3月に施行された安保法制が戦争法であることを如実に示していると思います。でも、こうしたデザインをあえてした今の自衛隊の感覚・意識、安倍政権の考え方と、日本の多くの労働者市民の意識、考え方とはまったく違います。」

© screenshot from JGSD's site陸上自衛隊の新たなエンブレム
陸上自衛隊の新たなエンブレム - Sputnik 日本
陸上自衛隊の新たなエンブレム

問題は、エンブレムそのものではない。これが日本の軍事政策がこうむった変更を背景に、このような警戒を引き起こしていることだ。自衛隊は外国で作戦に参加する権利を得た。そして安倍政権は今、「平和」をうたう憲法第9条の廃止を目指している。なおロシア科学アカデミー歴史研究所・紋章学・系統学研究所の所長で、ロシア大統領付属紋章評議会のメンバーのアレクサンドル・チェルニフ氏は、「スプートニク」のインタビューで、エンブレム自体にセンセーショナルなものは一切ないと説明し、次のように語っている-

「軍のエンブレムが、武器が描かれた国章と組み合わされることは珍しくない。日本刀は第二次世界大戦よりはるか昔のもので、日本国民の文化遺産、国家遺産に属しているイメージがある。全体的に新エンブレムは、これまで存在していたロゴよりもはるかに表現力に富んでおり、世界の軍事エンブレムに融合している。懸念を呼ぶのはエンブレムではなく、公式には軍と呼ばれず、自衛隊と呼ばれている日本の軍の存在に関する憲法の基盤を変えようとする試みだ。」

© AP Photo / Koji Ueda「戦争法案」反対デモ
「戦争法案」反対デモ - Sputnik 日本
「戦争法案」反対デモ

本国内の平和主義的な気運や運動は今も非常に強い。先崎氏はインタビューでそれを裏付け、次のように語っている-

「私たちは戦争絶対反対で、自衛はいいけど、侵略はだめという立場ではありません。だから「防衛」という言い方にもごまかしがあると考えています。「防衛政策」とは、日本という国家の軍事政策、戦争政策です。そのうえで、集団的自衛権の行使を可能とする安保戦争法の成立・施行以降、状況が一変していると認識しています。それ以前と以後とで自衛隊の出来ることが大きく変化しました。憲法9条で戦後ずっと禁止されていた自衛隊の武力行使を可能としたのは決定的です。でも、それだけでなく、日本の支配者たちの戦争衝動(欲求)が露わになっていることです。とくに安倍政権は、東北アジア―朝鮮半島をめぐる戦争の危機を積極的につくりだそうとしていると見ています。 私たちは、戦争を止める力は、労働者市民が国境を越えて連帯して、自国の戦争策動に立ち向かう中にあると考えています。だから、朝鮮半島で戦争をさせないために日韓の労働者市民の連帯した闘いがとても大事だと思います。」

© AP Photo / Shuji Kajiyama「戦争法案」反対デモ
「戦争法案」反対デモ - Sputnik 日本
「戦争法案」反対デモ

なお記事の中で述べられている見解は、必ずしも編集部の立場とは一致していません。

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