ガスプロムの政治経済学(2016年版) (1)

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2013年に『ガスプロムの政治経済学(2013年版)』をKindle版で上梓した。その改訂版『ガスプロムの政治経済学(2016年版)』が1カ月以内に刊行できる見通しになってきた。そこで、何回かに分けて、この本の中身を紹介したいと思う。

今回は、「はじめに」と「目次」をそのまま紹介する。


はじめに

『ガスプロムの政治経済学』を著すことにした最大の理由は、ガスプロムがロシアの政治経済におよぼす影響力が絶大である点にある。ロシア連邦政府にとって、その連邦予算の主要な歳入源としてガスプロムが重要な役割を果たしてきただけでなく、ガスプロムによる天然ガスの他国への輸出がそれらの諸国のエネルギー安全保障上、無視できぬ影響力をもち、ガスプロムがロシア外交戦略の先兵の役を担ってきた。ゆえに、「ガスプロムを理解すれば、ロシア全体の政治経済状況を把握することができる」とさえ言える。だからこそ、ガスプロムを政治経済的に分析して、ロシアそのものの理解に役立てようと企図したわけである。

2013年9月に『ガスプロムの政治経済学』(Kindle版)を上梓して以来、すでに3年が経過する。本来、2年ごとには改訂版を刊行する計画であったが、ウクライナ危機の発生で、『ウクライナ・ゲート』(2014年)、『ウクライナ2.0』(2015年)を立て続けに刊行せざるをえなくなったため、『ガスプロムの政治経済学』の改訂に手間取ってしまった。それでも、どうにか3年後の改訂にこぎつけることができた。

本書は、前作を全面的に書き改めたものである(もちろん、重複部分もあるが)。前作を読んでいない者にとっては一部わかりにくい部分があるかもしれないが、その場合には、前作を読んでいただくしかない。
本作では、序章においてまず、ガスプロムの概要を説明する。そのうえで、前作と同じく、経済的側面からの考察(第1章)と政治的側面からの考察(第2章)を行う。

第1章では、パイプライン輸出、LNG輸出、対ウクライナ問題、対中協力、国際戦略、経営指標と財務、国内のガス問題の七つの論点に分けて分析する。筆者自身がとくに力点を置いたのは対中協力と国内のガス問題についてである。中ロ協力については、拙稿(「ロシアからみた中国の「新シルクロード構想」」『東亜』や「中ロ協力の現在」)や拙著(『ウクライナ2.0』)のなかで分析してきたものであり、科学研究費補助を受けている「中ロの「空間」協力をめぐる総合的研究」にも関連している。国内のガス問題では、国内卸売価格の自由化問題が重要と考えている。

第2章では、重役会のメンバー、外部人脈とプーチンの二つの論点に分けて考察した。プーチン大統領の権力の背景にガスプロムに関連する複数の人々がおり、それらのつながりを分析することで、ロシアのビジネス界に張りめぐらされているプーチンのネットワークを知ることができる。恣意的な政策決定に基づくレントを貪る人々こそロシアにはびこる腐敗そのものと言えるだろう。そこに現在のロシアのかかえている政治経済上の問題点が浮き彫りになるだろう。

最後に終章として若干のまとめを行いたい。

2016年10月10日

塩原俊彦

はじめに

目次

 

序章  ガスプロムの概要

1. 単一ガス供給システム上のバランス

2. 天然ガスの確認埋蔵量

3. ガスの採掘と販売(消費)

 

第1章 経済的側面からの考察

1. パイプラインによるガス輸出

(1) 対欧州向け輸出

(2) 輸出を確保するためのガス輸入・買付と再販

2.  LNG輸出

(1) LNG輸出の実績と今後の戦略

(2) ノヴァテクによるLNG輸出

3.  対ウクライナ問題

(1) ウクライナ国内のガス概要

(2) ウクライナ向け輸出とウクライナ経由のガス輸送

(3) ベラルーシ向け輸出とベラルーシ経由のガス輸送

4.  対中協力

(1) 中国国内のガス概要

(2) パイプラインによる対中ガス輸出

5. 国際戦略

(1) 国策会社としてのガスプロムおよびロスネフチ

(2)  エネルギー関連からみた中ロ協力

6.  経営指標と財務

(1) 主要な経営指標の推移

(2) 財務上の問題点

7. 国内のガス問題

(1) ガスの国内卸売価格

(2) ノヴァテク

(3) ガス課税問題

(4) ガス化問題

(5) ガスプロムの独占問題

(6) LNGの国内利用

 

第2章 政治的側面からの考察

1. ガスプロムの政治利用

2. ガスプロムの重役会メンバー

(1) アレクセイ・ミレル

(2) ワレリー・ゴルベフ

(3) アンドレイ・クルグロフ

(4) ヴィタリー・マルケロフ

3. ガスプロムの外部人脈とプーチン

(1) ゲンナジ・ティムチェンコ

(2) ローテンベルグ兄弟

(3) ヴィクトル・フマリン

(4) ユーリー・コヴァリチューク

(5) ニコライ・シャマロフ終章 結びにかえて

 

終章 結びにかえて

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