シリア紛争はこれに加わる外交プレーヤーの数が多く、込み入っていることから、専門家らの多くはこの国の国境線が以前のラインに戻ることは決してないのではないかと予想している。シリアの戦線での戦いは紛争の直接的な当事者のものではなく、その背後に立つ者らの争いとなっている。まさに紛争を背後で操る者たちが自分たちの戦略的目的を果たすために戦闘員らを使っているからだ。その結果、この地域ではここ5年間でイスラム主義の組織とこれらが掌握した領域が強固に固められたことは全世界がはっきりと目撃している。
「サウジアラビアはつい最近までシリア紛争の火を焚きつけ、最も破壊的な役割を演じてきた。サウジはシリアの内戦をある種、イランに対抗する周辺部の戦争と位置づけていた。サウジは欧米、トルコ、クルドなどイランに対抗するための戦いにとにかくあらゆる人間をここへ引き寄せたいとしていた。これはサウジにとってはイランがペルシャ湾岸の南部、南西部、つまりパレスチナ方面へと拡張するのを抑止する方策だったのだ。
まさにサウジがシリアのイスラム主義武装戦闘員のかなり多くに資金を渡している。それはイスラム主義者らがアサド政権に対抗する闘いを続け、戦争が出来るだけ長引くようがサウジにとって好都合だからだ。この戦争が長引けば長引くほど、イランは手持ちの資金を費やさざるを得ず、サウジはますます枕を高くして眠れることになる。
トルコはアサド政権が転覆すればトルコはシリアに親トルコのスンニー派政府を獲得できるという一種の保証となると考えていた。トルコはトルコ型の国家モデルと輸出できるのではないかと期待を寄せていたのだ。もちろんトルコはイランとの間にはサウジ対イランのような争いは抱えていなかった。だがトルコも10年後にはイランは自分のライバルとなることは重々理解していたのだ。オスマントルコ帝国にとっては中東は常にあまりに手狭だった。」
こうした一方でここ最近、多くはテロとの闘争におけるロシアの支援に起因してシリアにおける外交プレーヤーの目的に変化が生じており、プレーヤーらは昔ほど直接的には自国の路線を追及していないとして、さらに次のように語っている。
「ポジションはトルコがシリアのことでロシアと大喧嘩をしてから実際非常に深刻な変化をとげた。だがこの事が起きたあとすぐにトルコは自分が孤立したことをまざまざと知ったのだ。つまりトルコは対露関係を欧米への圧力を講じるハンドルとして使う可能性を逸したのだ。
エルドアン大統領は自分が熱を入れすぎたことを悟り、対露関係の正常化を開始し、シリアに対しても正常化しはじめた。と、そうしたときにトルコでクーデター騒ぎが持ち上がった。
これはロシアの状況が関係したものではなく、前もって準備されていたものだ。だがこのクーデターが起きたおかげでエルドアンは、頼りにしていいのは他ならぬロシアであってロシアとなら手を組めるが米国は自分を裏切るという思いを堅くしたのだ。」
この後トルコはアサド体制に対する関係正常化プロセスを開始した。トルコはそれまでのアサドは交渉の相手ではないとしてきたが、こうした立場は消えうせた。トルコは依然としてシリアのいくつかの武装組織には武器、資金を注ぎ続けているが、シリアの紛争地域にロシアの軍用機を撃墜できるようなハイテク武器を供給することはおそらくもうしないだろう。エルドアン大統領は十分知恵が回るため、新たな罠にはまり、またもや孤立状態になることはない。
ミルヤザン氏は、サウジアラビアの今の状態はそれよりずっと複雑化しているとして、さらに次のように語っている。
「サウジは今ロシアとイランの関係に楔を打ち込もうと躍起になっている。と同時に、ロシアがイランの完全な同盟国にならぬようにロシアとの関係も改善しようと試みている。サウジはこの状況で米国のハイテク武器を武装戦闘員に売ってはならないことを理解している。なぜならそうした武器によってロシアの軍用機が撃墜された場合、この数ヶ月でロシアとサウジの間で達成されたことの全てが瓦解してしまうからだ。それにはロシア製武器のサウジ同盟諸国への供給も石油取引も含まれている。」
いずれにせよシリア政権は新たな問題とは直面する。それは地理的な分割と異なる宗教間の軋轢である。このほかにもロシア、米国、国連安保理といった主導的力の保証は依然として欠かせないい。ロシアを含め、大多数の主要なプレーヤーのポジションは、交渉プロセスを延期し、状況が多少好転するまで待つというものだ。現段階で一番大事なのはこの地域における急進主義のこれ以上の拡大を防ぎ、テロと流血の惨事のない、多少なりとも平和な生活を取り戻すことにある。