「同王は民衆にとり聖なる、非常に重要で、非常に尊敬される人物だった。タイの現代政治システムの創設に多大な貢献をした。王権の代表者として軍事クーデターや一部の蜂起勢力や団体の政権奪取にかなりうまく対処した。ゆえにタイでは王は偉大な君主とされ、民衆は非常にその死を惜しみ、悲しんでいる。王としての活動においては帝室仏教の原理、つまり、へりくだりを宗とした。つまり、君主というのは単なる国家の最上層に位置する者、空と地の間にあるものではなく、何よりもまず、祖国に奉仕する者なのである。王はこの原理を王としての活動の中で体現した。彼は農家、小規模農業団体を非常に支援し、国中を旅し、彼らのちょっとした問題を解決していった。関心をむけられることにまして人々が高く買う物は何もない。君主が小さな人間、農家などに向ける注意であればなおさらだ。これが名声を呼んだ。しかも、その政治的出来事への影響力は間接的で、非明示的で、非常に繊細で、それでいて非常に実効性のあるものだった。こうして彼は政権をめぐって争う軍その他政治団体に対抗した。そして権力の承継性を担保した」
それが国の福利にどのように影響したか。むろん国民産業を含めた支援プログラムの発展により、王室は自らの資産をも増大させたわけだ。それも、王自らは改革を行わなかった。しかし、彼には国の発展に対する一定のコンセプトがあった、とフォミチョワ。
しかし、今後はどうなっていくのか?今こそ権力闘争が始まるのではないのか?
「ラーマ9世には正当な継承者がいる。いとり息子の王子だ。63歳になる。おおかた、彼が次の王になる。もっとも、王位継承法に関してかなり後になって導入された但し書きがあり、王子に何らかの問題があれば、継承権を妹が継ぐことができる。姉妹は3人いるが、うちの1人に継承権がある。現在そうした問題は非常に慎重に王室、王権や王位継承について王室メンバー参加のもとで議論する特別機関、秘密評議会で話し合われる。というわけで、継承者はいる。しかし、重要決定を下すのは秘密評議会なのだ。権力闘争については、急激な権力交代があればいつでも一定の勢力が挑発され、秩序が乱されるということまではいかなくても、何らかの異なる政治決定を模索する動きはある。しかし、君主の死に際して、国民みなの哀しみがあまりに大きい今は、いかなる他の勢力も自らの主張を公にすることはあえてし得ないと思う。そうしないと、民衆からあまりに大きな憎悪を買う。そうなったらもう彼ら自身手に負えない。しかし将来的には、何らかの小規模な勢力が政治的な挑戦に打って出ることはなくはないと思う」
東洋学研究所東南アジア課上級研究員エレーナ・フォミチョワ氏はこのように述べた。