ぺテルブルグはその街並みから、京都のような古都だと思っている読者の皆さんもいるかもしれないが、実は1703年に、ピョートル大帝によって何もない沼地に人工的に創建された街なのだ。なので、古都と呼ぶには若干語弊がある。モスクワの誕生は1147年だと考えられているので、それに比べるとずいぶん新しい街だ。
現在、モスクワはハイペースで景観が変化し、モスクワ・シティを始めとする高層ビルが立ち並ぶ超近代的な都市になった。一方で、ぺテルブルグは地元住民が誇る、昔の景観を大事にした街づくりを尊重してきたため、街の見た目の逆転現象が起きている。
しかし、この「景観を守る」という意識があまりにも強かったため、インフラの整備という点ではモスクワに遅れをとっていた。また、水資源の汚染対策も遅れた。サンクトペテルブルグのロシア科学アカデミーによれば、「フィンランド湾やバルト海はかなり汚染されている」ということだ。フィンランド湾は堤防汚染が目立っていたので、埋め立てによって沿岸部の地形を変え、汚染度合いを緩和しようとしたが、「埋め立て行為そのものが環境を破壊する」という住民の思い込みから反対運動が起こり、ストップがかかるという事態も起きた。
折りしも、日本がロシアに提案している8項目の経済協力の二番目には「快適・清潔で住みやすく、活動しやすい都市作り」が掲げられている。まさに今、日本からの投資を呼び込むならば、景観を守り、環境に十分に配慮しつつ、市民生活の質を向上させるという手法が求められている。
サンクトペテルブルグ市・対外関係委員会の委員長代理で、国際協力部の部長でもあるイーゴリ・レンスキー氏は、都市インフラ向上のための日本の参入に、期待を見せている。レンスキー氏は先月、国土交通省の花岡洋文国土交通審議官を始め、建築設計事務所やメーカー、シンクタンクといった日本企業関係者らと会合を開き、意見交換を行った。
プーチン大統領の訪日に向け、日露で経済協力8項目のプロジェクト具体化が進んでいることに関してレンスキー氏は、「特に都市経営に関することを期待します。先端技術協力や、自動車製造についてももちろんですが、サンクトペテルブルグが最も必要としているのは、インフラ投資プロジェクトだと思います。」と話している。
この会合と時を同じくしてサンクトペテルブルグでは、Х-Urbanフォーラムが開かれた。日本からは花岡国土交通審議官と、日建設計のファディ・ジャブリ執行役員が登壇し、日本の街づくりの取り組みについてプレゼンを行い、多数の市民が聴講した。ペテルブルグ市民は、日本では一般的になっている「TOD」(Transit Oriented Development)、つまり駅などの交通結節点を中心に住居や商業施設を作り、街を発展させていくという手法を、新鮮な驚きをもって受け止めた。ちなみにモスクワでは、環状線の開業によって、TODという言葉は一足早くメジャーになり始めている。フォーラムに参加した日建設計のプロジェクト開発部門、都市デザイングループの来住竜一理事・副代表は、ペテルブルグ市民の反響の大きさに驚いた。来住氏は「規制を守りながらも都市を再生することの必要性を、多くの市民の方が感じている、と分かりました。それをここまではっきりと感じたのは初めてです」と話している。世界遺産を守るという発想から、守るだけではなく劣化するインフラにも対処しなければいけないという風に、市民の意識の変化が浮き彫りになった。