リベラルな価値観を支持する人々は、クリントン候補に共感を持ち、トランプ候補について、例えば著名なリベラル派政治家レオニード・ゴズマン氏などは、自身のフェイスブックの中でクレムリンを支持する「危険な過激主義者」と書いている。
米国の選挙の中に「クレムリンの手」を見ることは、明らかに誇張された見方である。FBIは、ロシア政府と共和党候補の関係を確認するそうした事実を発見しなかった。また内部告発サイト「ウィキリークス」はクリントン候補のメールのやり取りを公表したが、それがロシアのハッカーのおかげだとの証拠もない。このようにロシア政府に対し、少なくない侮辱的声明が出された。
クレムリンは、米民主党が選挙戦の道具として、ロシアとプーチン大統領を悪魔扱いし利用していることに苛立ちを隠してはいないが、それでもあらゆるやり方で、選挙の行方の予想や候補者の評価から距離を置いている。
先日開かれた「ヴァルダイ・フォーラム」でプーチン大統領は、こうした状況について次のように述べた-「第一に、ロシア連邦、ロシアを敵とするイメージが作られ、その後で、トランプ候補を我々がひいきしているとの説明がなされている。これは全くばかげた作り話だ! これは単に、国内での政治的戦いの手段であり、米国大統領選挙そのものを前に世論を操るための手段に過ぎない。」
しかし有権者の三分の二が、米国は正しくない方向に進んでいると考えている条件下で、米国の将来の政策を予想するのは徒労である。例えばプーチン大統領は「選挙で勝利するのがどういった候補であっても、どのように行動するか我々にはわからない」と強調している。
ロシアを代表する米国問題の専門家達の意見は一致している。彼らは、現在米国の政治システムの中で、深刻な不具合が生じていると見ている。議員、知事、党役員、シンクタンクといった政治的エリートすべてが、ある種のセルフサービス・システムに退化してしまったというわけだ。その結果、2008年の危機後の経済的再生やミドルクラスの減少といった国が抱える基本問題を解決できない。
こうした状況に対する答えとなったのが、トランプ氏やサンダース氏の登場だった。ビジネスマンの代表とリベラル知識人の代表である。彼らは、ワシントンのエスタブリシュメントを批判し、自らのプログラムを提起した。両氏は予備選を通過できないだろうと見られていたが、サンダース氏はクリントン陣営を最後まで苦しめ、トランプ氏に至っては、ブッシュ一族を筆頭とする「正統派」共和党員を押しのけて、大統領候補の座を手に入れた。
トランプ候補とクリントン候補は、選挙戦の中で、米国の対外政策に対し極めて異なるアプローチを示したが、この分野での最も深刻な相違点は、対ロシア関係だった。
ヒラリー候補は、オバマ大統領の路線の継続を訴えている。この事は、制裁その他、ロシアに対する圧力の継続と強化を意味している。それ以外にクリントン候補は、中国との対話において米政府の立場を強化し、また中東では米国の立場を復活させようとする、ホワイトハウスにおける政策提唱者の一人であるとみなされている。
この事は、最高レベルでの政治対話にも、また経済交流にも、さらには反ロシア政策を侵害するような交流発展に向けた、あらゆる目立った措置にも関係してゆくだろう。一方、露日関係の停滞は、東アジアのパワーバランスに影響を与える可能性がある。
そうした状況において今後4年間、安倍首相は、2020年まで権限を持ち続けたとしても、ロシア政府との交渉で前進を達成するのは極めて困難だと思われる。
トランプ候補について言えば、選挙戦の過程で彼は、対外政策的コンセンサスを、明らかに越えた。トランプ候補は「私はウラジーミル・プーチン氏を知らない。彼は私の親友ではない。しかしもし、ロシアと米国が仲良くし、ダーイシュ(イスラム国)と共同で戦うならば、それは良いことだ」と述べた。こうした彼の発言は、ロシア指導部の注意をひいた。またトランプ氏は「冷戦」後のNATOの機能について、より現実的に見るよう訴えた。加えてトランプ氏は、ウクライナに関し、もう口を開いていない。この事は、欧州においてますますアクチュアルな問題となりつつある対ロシア制裁緩和問題が、米国で理解される可能性があるとの、ある種の期待を持たせるものだ。こうしたすべてのことは、露米関係「解凍」への期待を抱かせる。
しかし一方でトランプ氏は、対ミサイル防衛(MD)システム展開の活発化や核兵器の改良などを主張しており、その事は、ロシアの政治家達の間に極めて大きな苛立ちを呼び起こしている。
とはいえロシアと米国の関係改善、あるいは少なくとも両国のリーダー間の個人的関係改善に向けた窓は、トランプという新しい人物が選ばれたとしても、開かれたままだろう。これはロシアと日本の関係正常化にとって、肯定的なファクターである。