忙しくブースを切り回しているのは、KSユーラシア株式会社のクハルチョク・クリスティーナさんだ。KSユーラシア株式会社はロシアビジネスの経験が豊富なセンコン物流株式会社の子会社であり、ロシアのディストリビューターを通し、グム百貨店内にある高級化粧品店やサロン、スパなどに様々な日本製化粧品を展開している。既にリレント化粧品などはロシアに根強いファンがいる。この日、同社のエイジングケア商品を買い求めた女性は「個人的に、日本の化粧品をとても評価しています。私が今使っているものは素晴らしい品質で、今日はこれを買うためにわざわざ来ました。展示会で買う方がネットよりも安心なので。スペイン製やイタリア製のコスメも試しましたし、それぞれに良いのですが、もう浮気はしません。私にとっては日本製が一番良いですね」と笑顔で話してくれた。
ブースには宮城県海外ビジネス支援室の菅原順一さんも同席していた。宮城県は今年度、ロシアビジネス支援事業として、お茶の井ヶ田株式会社が手がけるスキンケアコスメ「茶結肌(さゆき)」を選定。ロシアへの販路開拓事業は、KSユーラシア株式会社が担うことになっている。県は、この両社をサポートしていく。今回のインターチャームでは来場者の反応を見るのが主目的で、茶結肌をどのように販売していくかはまだ検討中である。筆者が訪れた日も興味を示す人が続々と現れ、反応は上々だったようだ。
クハルチョクさん「日本人女性はまめで、面倒がらずにお手入れをする方が多いですし、段取りを踏んだスキンケアをしなければいけないという知識をお持ちです。それに比べてロシアでスキンケア化粧品が出てきたのは、比較的最近とも言えます。昔は『クリームだけ塗って終わり』という方が多かったので、その流れはまだ残っています。ロシアでは、肌の正しいお手入れについてご存知の方もいる一方、知識がない方もいます。例えば化粧水などは、どういう効果があって、何のために必要なのかという知識をきちんとお伝えすれば、重要性について理解していただけます。そうなると皆さん、日々の手入れに取り入れようとするわけですね。ロシアは、知識を得れば新しいことを取り入れてくれる国ですから、やはり大事なのは伝えていくことだと思います。」
日露で美の基準がほぼ変わらないと言っても、肌の色に対する考え方には多少違いが見られる。ロシア人女性といえば日本人は白い肌をイメージするが、ロシア人女性の間では少し小麦色に焼けているほうが魅力的だと思われている。夏のバカンスの際にはビーチでこんがりと肌を焼くことがステータスであり、それができなければ日焼けサロンに通ったりする人もいる。日本ではすっかり定着した美白という言葉は、ロシア人女性の心に響かない。そこで、美白化粧品と言わず、シミを目立たなくする化粧品だと言うと手にとってもらえるそうだ。また、筆者の印象では、保湿や乾燥対策といった言葉よりも、アンチエイジングというフレーズがご婦人方の心を引き付けているようだった。保湿と老化防止、シワ対策は切っても切れないわけだが、このように同じ商品であっても、説明の仕方ひとつで大いに印象が変わるものだ。
クハルチョクさんによれば、ルーブル安・円高の影響で日本製の化粧品は値上がりしているが、高所得層は従来と変わらず購入し続けているという。一方、少し贅沢をして高級化粧品を買うこともあった中間所得層は買い控えの傾向にあるので、若干売り上げに影響が出ているとのことだ。しかし、景気が良くない今だからこそ、市場に根ざしていくことが重要だ。
クハルチョクさんは「モスクワに進出している日本企業はまだまだ少ないと言えます。経済状況が好転してから新規参入することは難しいので、今のうちに基盤作りをしっかりと進めていきたい」と意気込みを話している。それは、企業をサポートする立場の宮城県も同じだ。菅原さんも「ロシアの経済状況は良くなく、輸送コストの上昇等で厳しい局面は続いていますが、地道にできることを続けていきたいと思います。また茶結肌以外にも、宮城米などは、特に輸出を推進していきたい商品のひとつです。モスクワに来て、日本米を装った海外産の類似品をたくさん見かけました。それは真似されるほど日本米の品質が認められているということでもありますから、私たちの県からはきちんとした商品を出していきたい」と述べている。