東南アジアは既存の国家間対立や意見の相違があからさまな大規模な軍事衝突に発展する可能性の高い地域の一つに数えられる。敵対する主要な大国となり得るのは中国と米国である。日本は実質上、米国にとって域内で唯一残された信頼できる同盟国でありパートナーである。この状況はここ数ヶ月のフィリピンによるスキャンダラスな反米行動でいっそう明白なものとなった。
もうひとつ極めて重要な、そして更に複雑な問題がある。環太平洋経済連携協定(TPP)の行方を含めた経済問題である。
日本はこの協定の強力な支持者である。もう何年にもわたって日本経済が停滞から抜け出せないでいることを踏まえ、日本の政財界はまさにTPPにこそ経済上向きのチャンスを見出していたようだ。しかし、トランプ氏が選挙に勝利した文字通りその瞬間から、TPPプロジェクトは崩壊を始めた。
まず、米議会を通じた協定批准の可能性が消え去った。トランプ氏は自らTPPに絶対反対の姿勢を示し、当選した場合にはTPPを脱退する意向を何度となく公言してきた。
さらに、ベトナムが協定批准を取り止めた。ペルー大統領はTPPの代わりにロシアと中国との間に米国抜きの協定を締結する提案を行った。実質上、今後、この問題における日米の立場は真逆のものとなる。
そんな中、日露間では昨今、経済協力の深化に向けた交渉が進んでいる。しかも、極めて大規模なプロジェクトが名を連ねる。日本が最も重要視しているのは、ロシアのエネルギー資源を極東諸国に輸出するプロジェクトへの参画である。これは深刻なエネルギー不足に直面する日本にとっては極めてアクチュアルなテーマだ。日本はこのほか、現在形成されつつあるユーラシア物流ルートへの参入にも関心を示しており、とりわけシベリア鉄道の北海道延伸プロジェクトが検討されている。
トランプ氏には米国経済を救出するという差し迫った課題があり、日本に対する支援が彼の計画に入っているとは思えない。日本が必要とする支援を米国が提供できなくなれば、日本は本当にロシアに向き直るかもしれず、そのときは平和条約締結だけが目的ではなくなるだろう。今度こそ、経済が前面に出る番かもしれない。