スプートニクは国際経済の専門家である杏林大学名誉教授の馬田啓一氏に話を伺った。馬田氏によれば、今回の日本の対応は、夏頃から予想されていたことだ。
馬田氏「今年5月、伊勢志摩で行われたG7サミットにおいて、中国をWTO協定上の市場経済国として認定するか否かの問題については、日本と欧米が足並みを揃えて対応しようという方針で一致していました。欧米は、中国が鉄鋼を過剰に生産して不当に安値で輸出していることに対して『対応が手ぬるい』とみなしており、中国を市場経済国とは認定できないという姿勢を示しています。今回、日本はそれに同調して、認定の問題を先送りしました。」
馬田氏によれば、欧米の反対姿勢が強固なのは、鉄鋼の過剰生産問題のためである。経済協力開発機構(OECD)のデータによると、2015年の鉄鋼の過剰生産のうち中国が半分以上を占めており、これが鉄鋼の世界的な安値をもたらしている。欧米の鉄鋼メーカーがダメージを受けている中で、中国を仮に市場経済国と認定すれば、欧米諸国は中国製品に対してアンチダンピング税を発動しにくくなる。しかし日本は、欧米ほどダメージを受けてはいない。
馬田氏「日本と欧米では立ち位置が異なります。日本製と中国製では鉄鋼の質が異なるので、日本の鉄鋼メーカーが欧米メーカーほど打撃を受けているとは言えません。また、日本が中国製品に対して欧米のように頻繁にアンチダンピング税を課さないのは、日本が輸入する中国製品のかなりの部分が、日本企業が現地生産したものだからです。」
経済活動が自由かどうかはさておき、経済大国である中国は、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉に参加するなど、市場経済国に半分足を突っ込んでいる段階にいることは間違いない。馬田氏は「日本はむしろ、WTO協定における市場経済国認定を、日中韓FTAやRCEPの交渉において、中国に対して譲歩を迫るカードとして使うべき。先に市場経済国に認定してしまっては、中国が鉄鋼の過剰生産能力を解消する約束を遂行しない可能性もある。『食い逃げ』されないよう、中国の対応を見極めなければならない」と主張する。
米国では、大統領選中から中国に対して厳しい発言を繰り返していたトランプ氏が次期大統領になる。当選後も中国に対する挑発発言は続き、中国製品に45パーセントの関税をかけるという話も、再三述べられていることから、あながち冗談ではないのかもしれない。もし中国が日米欧による認定先送りを協定違反だとWTOに訴えれば、それが引き金となって、米中間で貿易摩擦の火花が散る可能性もある。